なんで ページ26
.
ゆっくりと控えめに開いたドアを掴むと、中にはびっくりした表情のAちゃんがいた。
「い、石川さんっ…どうしたんですか…すごい濡れてるし」
「あー、いや、まあ」
窓際にいるあなたを見てたら泣いてるみたいで、心配すぎて来ちゃいました。
って言えたら楽だな〜まじで…。
あれこれ考えながらふとAちゃんに視線を戻すと、バツが悪そうに下を向いている。
チラッと見えたまつ毛はやっぱり濡れていて。
その瞬間、「お邪魔します」と一歩足を進めた。
グッとAちゃんの肩を押して、後ろに倒れてしまわないように気遣いながら部屋の方へと誘導してみる。
「へ？ちょっと、どうしたんですか」
「なんか食べた？食べてないでしょ」
元気がないように見えるし、それに、元々細い身体がもっと細く軽く、薄くなってる気がするから。
「…あんま食欲なくて」
「…コーヒーは？飲む？俺淹れるから」
悪いです、と言ったAちゃんをソファーに座らせ、キッチンに立った。
実は最近よく来てるから、もうコーヒーがどこにあるかも、マグカップがどこにしまってあるかもわかるんだよね、これが。
お湯が沸くまでの間、居心地が悪そうなAちゃんはまた、窓の外を見ていた。
ねえ、どうしたの。
いつも俺に向けてくれる笑顔は？
どうしてそんなに悲しそうな顔してんの？
何で泣いてんの。
「…へ？」
気付くと俺は、Aちゃんのすぐそばに座って、彼女の頬にできた涙の跡を指でなぞっていた。
「…何で泣いてんの」
「…泣いて、ないです」
「嘘つき」
「…わかりますか？」
「うん、わかるよ」
「…」
火をかけたやかんがピーーーーーーっという音を立て、お湯が沸いたことを知らせてくれる。
俺は時間をかけてゆっくりコーヒーを淹れた。
コーヒーの匂いが部屋の中に充満して、少しでもAちゃんの気持ちが落ち着くように。
ゆっくりゆっくり、コーヒーを淹れた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
〇〇(プロフ) - いつもお話読ませて頂いてありがとうございます。ドキドキハラハラしますね。楽しみです。 (4月23日 11時) (
レス) @page41 id: 17708f6b5e (このIDを非表示/違反報告)
Yajirushi.(プロフ) - 〇〇さん» 読んでいただきありがとうございます（ ; ; ）更新速度が遅く、申し訳ありません。楽しんでいただけますと幸いです！ (4月6日 23時) (レス) @page33 id: 475853de31 (このIDを非表示/違反報告)
〇〇(プロフ) - とてもおもしろいです。続きが気になります！ (4月5日 20時) (レス) id: 17708f6b5e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Yajirushi. | 作成日時：2024年3月3日 0時
