歪め。【宇髄天元】

歪む ページ38

本気なんだ。

全部無かったことにするだなんて、できるわけない。
けど、宇髄くんは本気なんだ。

『そんなの、無理…私はもう』

「俺と一緒になる気はねぇ、か？」

宇髄くんは晴々しい笑顔を浮かべる。
それが、怖い。

絶対に目は笑ってない。


「でもな、俺もAを諦める気はねぇの」

『…！』

腕を振り解こうとするも、動けない。

冷や汗が体中から吹き出す。

「乱暴する気はねぇし、お前がどうしても嫌って言うんなら身を引く。
でも、本当にそう見えないからまだ離さない」

学生時代の頃から変わらない、爽やかな笑顔。

この笑顔であらゆる人の心を惑わせてきたのだろう。


いや、そんな生優しいものじゃない。

狂気とも呼べる、まっすぐに歪んだ感情をひとつも悟らせない
綺麗すぎる笑顔。


「分かる？それくらい好きなんだよ、俺は」

『…なん、で』

「理由とかいる？」

じっとその目を見ていれば分かるはずだ。

危険すぎる色の光が垣間見える。

どうして気づけなかったんだろう。

「Aの好きなところは無限に言える。
けど、そんなもん好きになったからだしな。

何から好きになったかなんて忘れた」

宇髄くんの言葉は止まらない。

「そもそも、なんで渋ってんだよ。
あの時のことは悪かったけどそれはお互い様で済む話だし、
これからその分愛を返してくれたらいい」

そういうことじゃない。

宇髄くんは、危ない。本能が告げている。


「Aに会った時から、こちとら歪まされてんだよ」


『…！』


どうして私なんだろう。
宇髄くんだってその答えを知るはずはなかった。

偶然でしかなく、必然としか言いようがない。

「ごめんな、そんな顔させるつもりはなかったんだけどよ。
…俺のこと考えてんだなって思うと、嬉しいな」

心底嬉しそうに、無邪気に笑う。


『…分かんないの』

「あ？」

『宇髄くんのことも、自分の気持ちも…
どうしたらいいのか分からない』

「それなら俺を受け入れればいい」

そうやって流されて、こっちは後悔してきたんだって。

「自分でも、俺ちょっとおかしいなって思うこともあった。
けどまぁ、Aとだったらどこまで堕ちてもいいし。

だから大丈夫、すぐ慣れるぜ」


…慣れたくない。

言葉は声に変わらなかった。


駄目だ、何も考えられない。

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