歪め。【宇髄天元】

食す ページ15

『美味しい…幸せ』

チーズケーキの深い甘みと、爽やかな酸味が口の中に広がってはふわっと消えていく。

あぁ、なんて幸せだろう。


「ん、派手に美味えな」

…この男さえいなければもっと幸せだろうに。

『ちょっと、一口大きくない？』

「じゃあ上に乗ってるミントお前にやるよ」

『いらん』

週末。
1週間頑張ったねと自分へのご褒美に買ったケーキなのに…


「そんなに見つめんなって、照れんだろ」

この男のせいで全部パーだよ！

「大方、週末のご褒美タイムが台無しとか思ってんだな」

『なんで？心読めるの？』

「それくらい分かるっつーの」

宇髄くんは小さく吹き出した。
私、分かりやすいかな。


「俺が癒してやろうか？」

『無理。もっと疲れる』

「…俺、マッサージとか派手に上手いと思うんだよな」

『結構です』

早く帰ってくれ。頼む。

「ほら、肩ほぐしてやるよ」

勝手に私の背後に立って肩をぐりぐり。

「お客さん、凝ってますね」

『そうですねー…』

いわゆる肩揉みだが、上手い。なんて絶妙な力加減。
腹の立つことにしっかりほぐされている。

『…って、どこ触って！？』

「はいはい暴れないでねお客さん」

『待って、店長呼んで！あ、ちょっと、くすぐった…』

しかし店長は来ず。…いや、なんの店？



「どうよ」

『軽い…肩が軽い！』

さっきまでの凝りが嘘のようだ。

「リンパのマッサージだな。脇揉むやつは自分でもできるぜ」

凄いなぁ、なんでもできるなぁ。
素直に感心してしまった。

『よーし、じゃあ最後のショートケーキを食べちゃうか！』

「大事にとってたのかよ」

『定番が一番！いただきまーす』

ん〜、美味しい！既に３つもケーキを食べてたのにすっと入ってくる。
味わう私を宇髄くんはじっと見ている。

『ん？欲しいの？仕方ないなあ』

一口ぶん彼の皿にうつすと、宇髄くんは目を丸くした。

『何？てっぺんの苺はあげないよ』



ーーーーーーーーー

…いや、俺、苺好きじゃねえし。
すっかり機嫌良くなってケーキ頬張ってんのが可愛いと思って見てただけなんだが。

「食べないの？」

『お前のだろ。全部食えよ』

きょとんとするAの顔に手を伸ばし、柔らかい唇を指でなぞる。
彼女の口元のクリームを拭った。

『俺はこれでいい』

そう言って指のクリームを舐めとって見せれば、Aの顔はすぐ赤くなる。

ほら、もうケーキなんて目じゃねぇだろ。

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