歪め。【宇髄天元】

仰ぐ ページ14

「…ん、じゃあそういうことで。ありがとな」

『…はい』

話は1時間くらいで終わった。
私と宇髄先生は、適当に突き合わせていた机を元に戻して立ち上がる。


それにしても、本当にただの相談だった。

気を張っていたのに、拍子抜けというか。

宇髄先生の顔を盗み見ようとすると、ばっちり目があってしまった。
分かりやすく逸らしてしまう。

「ん？どうした」

笑いを含んだ声に唇を噛む。

あぁ、やってしまった。

「この後、どうする？」

『…帰ります』

極力目を合わせない。ようにしていたのに、気づけば彼は私の背後に立ち、顔を覗き込んでいた。


「何もすることねぇなら俺の相手してくれよ」


長い指が私の髪を耳にかける。ぞわぞわと身が竦む。
負けるな、私。

『…洗濯、掃除、授業の用意』

「ん？」


『暇じゃないんです』

手を払いのける。

「そうかよ…でも、俺もちょうどケーキ食べたかったんだよな」

『な、なんの』

なんのことだ、とは言えなかった。

「落としてたぜ」

『あ、それ』

ケーキ屋さんのクーポンだ。有効期限今日までの。

「帰りに寄るんだろ？俺も行く」

にこっと笑う宇髄先生。殴りたい。
ヘマをした私も殴りたい。



ーーーーーー

『ショートケーキと、モンブランとチョコタルト…それから』

「お前派手に食うんだな」

余計なお世話だ。今日は奮発するつもりだったんだから。

「んー、俺はレアチーズケーキで」

『あ、私も食べようと思ってたのに…ひとつしかないんですか？』

「申し訳ありませんが…」


「あぁ、半分こして食うから大丈夫。な」

は？何言ってるのこの人は。

「仲良しですね」

店員さんも絶対カップルか何かだと思ってるよ。違うから！

『いやあの、別々の箱に入れてください！』

「安心しろ、誰にも見つからねえよ」

距離近いから！やめてくださいこの男は赤の他人なんです…！
しかし笑ってひとつの箱を差し出す店員さん。なんでこうなった。




『あんたってやつは…！』

「一人で食うより二人の方が美味いって言うだろ」

あんたと二人で食ったら味しないんだよ！

「いいのかよ。限定の、こんな時間まで売れ残ってる方が珍しい絶品レアチーズケーキ」

『ケーキのことを言うのは汚い！』

「割り勘にしてやったしチャラだろ。お邪魔しまーす♪」


お邪魔って、まさか家か？家なのか？
家しかないか…

『本当に、邪魔…』

夜空を仰ぐ。星が笑って高みの見物をしていた。

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