歪め。【宇髄天元】

描く ページ12

高校時代。



『宇髄くん、絵上手だねえ』

「よく言われる」

放課後、私たちは美術の補習だった。
絵筆をせっせこ動かすのは私と宇髄くん二人だけ。

と言っても、ただ作業が遅いだけの私と完璧を求める宇髄くんとでは全く別物だが。

『どうやったらそんなに上手く描けるんだろう』

別に仲は良くなかったけど、二人しか居なかったら喋ってしまう。

「派手に才能だな」

派手にとは。

『正直』

「正直なとこセンスよ。積み重ねは大事だけどな。
最終的に才能ある奴が努力して頭角表すんだよ」

嫌味でも自慢でも、僻みっぽくもなく
ただ純粋に自分の意見を言っているような物言いで

私はそれが心地良くて好きだった。

『宇髄くんは才能の塊だよね』

これも純粋に思うことだった。

美術のセンスもある、音楽もできる。更にスポーツ万能ときた。
明らかに才能に恵まれた人だと思った。

「そうかもな」

けど、宇髄くんはちょっとだけ笑ってそう言うだけだった。

表情を伺うと、なんだか憂いを帯びた顔をしていた。

ただキャンバスを見ていただけかも知れないけれど
夕陽に照らされた横顔は、なんだかいつもの彼とは違ってた。

「砂川の絵、好きだけどな」

『え』

「丁寧で、繊細で。真剣に描いてんの、良いと思う」

『ありがとう』

こそばゆい。
ただゆっくり描いているだけだけど、そんな言い方ができるのか。

「で、何で困ってんの」

『へ？』

「気難しそうな顔して、行き詰まってんだろ」

笑いを含んだ声。大人びた宇髄くんが一瞬年相応になったみたいだった。

『細かいところが塗れなくて。…ほら、線が潰れる』

「あー。もっと絵筆の先使えよ」

と、こちらにやってきたと思えば、私の後ろに立った。

「そんなに絵の具付けなくていいから。で、こんな感じ」

そのまま腕を伸ばし、私の絵に色をつけていく。
…これは。

「聞いてる？」

『は、はい』

「ちゃんとこっち見ろよ」

いや、分かるでしょ。近いんだってば。
それで向き合おうものなら…

「力入りすぎ」

肩に手を置き、私の耳に口元を寄せる。

もはやプロの犯行じゃないか。

『…ちょっと、宇髄くん』

冷静を装うが、内心バクバクだし多分バレてる。
こんな地味な女子をからかって何が楽しいんだろう。

『近い』

「…あー悪い悪い」

案外離れるのは早かった。
銃を突きつけられたみたいに両手を上げていた。

人好きのする笑顔は、胡散臭かった。

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