ざわめき ページ30
雨の日だった。
冨岡さんは、職場に来ていなかった。
まぁこういう日もあるだろうけど…珍しいな。
家に帰っていると、
『あ、冨岡さん』
冨岡さんが見えた。
私を見つけると早歩きでやってくる。
『どこ行ってたの？』
「…祖父が他界した」
唐突。
『えぇっと、ご冥福をお祈りします』
「気を遣わなくてもいい。葬儀と遺品整理で忙しかった」
『そうなんだ』
黒いスーツに黒い傘。
冨岡さんは夜の闇から生まれてきたように見えた。
『で…それは？』
両手に抱えた細長い箱。
狙撃手がライフル入れるやつみたい。
「祖父の遺言で、これは俺が受け取るようにと…
よく分からないんだが」
『中、見てないの？』
「あぁ…これはどうも、只物ではない気がする」
そんなに言うほどだろうか。
確かに何が入っているか想像はつかないが、それほど変な感じはしない。けれど冨岡さんは、何かを感じているようだった。
「…見てみようか」
『え』
傘を肩に引っ掛けて、冨岡さんは箱に手をかけた。
重苦しく口を開ける箱の隙間から、何かが見える。
風呂敷…？
「これは…」
『これって…』
どきどきしてきた。
駄目なことをしている気分だ。でももう引き返せない。
するりと風呂敷の結び目が解け、
それは姿を現した。
『刀…？』
刀だ。
細身でありながら、重みを感じる。
「…」
『冨岡さん』
驚いた様子もなく、冨岡さんは刀を握り直した。
それから、綺麗な動作で、
例えるならしなやかな水の流れのように、
刀を抜いた。
鞘の縁から光がこぼれ、刀身が月を反射する。
『…！』
鈍く光るそれが雨の雫に濡れ、一瞬鮮やかな蒼を纏った。
「…俺は」
『冨岡さん…？』
彼に目をやると、私を見る瞳が揺れていた。
まただ。
凪いだ海のような蒼色が、波打っている。
手が震え出していた。
『冨岡さん』
名前を呼ぶと同時に、冨岡さんは大きく前に倒れかかる。
とっさに体を支えた。
剥き身の刀が地面に落ちる。
『冨岡さん、どうしたの。しっかりして』
私の肩に手を置いたまま、深く呼吸を繰り返す。
どうすればいいか分からないから、傍にいる。
かける言葉も見つからないで、ただ名前を呼んでいた。
雨音がやたら騒がしかった。
…行かないで、冨岡さん。
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いのり(プロフ) - 義勇と杏寿郎推しさん» 最後まで読んでくださってありがとうございます！締めが善逸くんですいません(笑)これからも夢主ちゃんをよろしく頼みます！よかったら他の作品も応援お願いしますね！ (2021年11月6日 20時) (
レス) id: c234760d5a (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - 我妻…、(何でお前が最後で締めるんだ…)？完結おめでとう…。次は、誰の書くんだ…？良かったぞ。これからも夢主と仲良くするつもりだ。冨岡義勇だ。これからも頑張ってくれ。 (2021年11月6日 15時) (レス) @page42 id: e9e5935c56 (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - なんて言う悲しい匂いだ…。本当に人違いですかね？俺の鼻は人違いでは無いって言ってます。竈門炭治郎です。続き楽しみにしています。 (2021年10月20日 7時) (レス) @page32 id: 38350d71b2 (このIDを非表示/違反報告)
いのり(プロフ) - 釜さん» ありがとうございます！とても励みになります♪これからも応援いただけると嬉しいです！ (2021年9月18日 8時) (レス) id: c234760d5a (このIDを非表示/違反報告)
釜(プロフ) - こんばんは！ほんわかしたお話で、描写も綺麗で好きです！ (2021年9月17日 21時) (レス) id: e08aae1730 (このIDを非表示/違反報告)
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