うちの兄貴と居候【煉獄杏寿郎】【宇髄天元】

気づいて ページ35

シャワーを頭のてっぺんから浴びる。
なんとなく、自分が泣いていることは分かった。

たった半年くらいの付き合いだったけど

それでも煉獄くんはなんだか特別な人だった気がする。

家に寄生してたら普通じゃないのも当たり前か。

『…はぁ』

きっと、寂しくなる。
今でもこんなに寂しいのに。

私たちは結局、家族じゃなかったから
煉獄くんが最終的に帰るのはここじゃないんだ。
当たり前のことだけど。


お風呂場から出ると、冷えた麦茶と紙が目についた。

「今までありがとう。

Aさんのご飯は世界一だと思います」

このどこか元気で綺麗な字も見慣れてしまった。

そうやって、よそよそしく離れていくんだね。
心の中の私が皮肉を言う。

結局いつ帰るのか聞けなかったけど…明日とか言わないよね。


「今週末だな！」

金土…あと1、2日じゃん。

『じゃあ明日、仕事休もっかな』

「おぉ、まじか」

「いや、俺のことを考えてならそんなことをする必要はない！」

あたふたしだす煉獄くん。
ごめん、もう連絡入れちゃった。

『煉獄くんのためじゃない。私がそうしたいの。
じゃ、今日はさっさと寝るね。おやすみ！』

「お、やすみ…」


ーーーーーーー

Aさんはたまに大胆というか豪快というか。
驚かされることがあるな。

「お前も寂しいのかよ」

『寂しくないわけがないだろう』

「やっぱり実家がいちばんなんじゃねぇの」

どういうつもりか知らないがAさんと同じことを言う。

『天元さんが言ったんだろう。俺たちは家族だって』

「まぁな…他人とは言えねぇよ。
でも本当の家族には勝らない。そんくらいは知ってる」

『それはなんとも言い難いが…
多分、俺は家族と同じくらい君たちを愛していると思うんだ』

「…へぇ」

たった半年程度の付き合いのはずなのに。

養ってもらった恩義や負い目だけじゃない
心からこの人たちと会えて良かったと思う。

「お前さ、このまま帰るつもり」

『このまま、とは…』

「あいつ残して、逃げる気かよ」

『あいつ…とは。いや、なんでもない』

聞こうとしてやめた。
多分そこまで聞くのは駄目だ。

「いい加減動け。たまには派手にぶちかませ。
好きな女泣かせたまま終われると思うなよ」

『す、すまない』

天元さんはずっと前から、なんとなく分かっていたんだろうか。

自分ですら気づけなかったのに。

「お前はいい男だよ、煉獄」

『…ありがとう』

天元さんの方が何倍もいい男だと思った。

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