未来 ページ43
「お母さん、なんで指輪ふたつつけてるの?」
小さな手が指を引っ張った。
ついこの前まで私の指一本掴むのに精一杯だった手は
もう繋げるようになってしまった。
『うーん、話すと長くなるなぁ』
左手の薬指にはきらきらした指輪と鈍い光を放つ指輪。
「結婚したときにつけるんでしょ?
2回結婚したの?」
もうそんなこと知ってるのか、最近の子は進んでる。
『ううん、両方あの傷だらけのお父さんに貰ったんだよ』
「結婚したすぎて1個じゃ足りなかったのかな」
『ふふっ、そうだね』
「お父さん、お母さんのこと大好きだからね」
『うん…まあ』
我が子に言われるとなんか恥ずかしい。
「でもお父さんわたしのことはよく怒るよ…」
『それはね、愛だよ。本当は、大好きで大好きでたまらないんだよ』
「そうなの?」
親の欲目かもしれないが、この子はきっと将来美人になると思う。
長いまつ毛があなたに似てるねと夫に言ったら、小さい鼻は私似だと言われた。
『お父さんは家族が何よりも大事だからね。
でも、好きって言うのは下手なの」
「簡単だよ?お母さんのこと好き!」
『ありがとう、お母さんも大好き』
簡単ではあるんだけどね、多分恋でもしたら分かるよ。
いや、恋なんてしたら黙ってないだろうな。特にお父さんが。
「…お父さんに会いたいな」
『たぶん、お昼寝して起きたら帰ってくる頃だよ』
時計を見やる。
娘を寝かしつけてごはんの用意でもすればちょうどいいだろう。
「帰ってきたらお父さんにも好きって言うの。
そしたら、お父さんも言ってくれるかな」
『言ってくれるよ、絶対』
「それから、ぎゅーってしてあげるの」
『いいね』
「それから、たかいたかいって」
『それは難しいかな』
「ねぇ、お母さん聞いて」
耳をかしてと笑う娘。最近ないしょ話がお気に入りなようだ。
「あのね、わたしお父さんと結婚するの」
『見る目あるね。…でもお父さんは譲れないかな』
「えぇ、けち」
『ごめんごめん、でもお父さんはみんなのものじゃないからなあ』
冗談めかして言うが本気だったりする。
『大丈夫だよ、幸せにしてくれる人は絶対どこかにいるから』
お腹を撫でているとだんだんねむたそうな顔になっていく。
私までうとうとしてしまう。
『おやすみ。ぐっすり寝てね』
彼が私を幸せにしてくれる人だとしたら
この天使のような寝顔の娘は、きっと幸せであることの何よりの証だ。
はやく彼に会いたい。
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