現在-渋々 ページ38
『…というわけで、頼む玄弥』
「兄ちゃんさあ…」
めちゃくちゃ呆れた顔で見られる。
人生で初めてじゃないだろうか玄弥にこんな顔されるの。
「それくらい自分で…」
『お前分かってんのか、返すってことは俺からAに声かけないといけねぇんだよ』
「声かければ良いだろ。なんの意地だよ」
『無理無理無理。一生のお願い』
「子供か!」
玄弥の奴、兄ちゃんが一生を懸けて頼んでいると言うのに…
「てか、兄ちゃん津城さんのことまだ好きなんだろ」
…
『…好きじゃねーし!』
「何その間。てか声がでかい」
『お前なぁ、俺が!いつ!あいつを!好きだっつったァ!!』
「見てれば分かるし」
『あぁん!?テメェの目は節穴か!」
見ていれば分かるだろう、もうそんな気持ちは無いことくらい。
玄弥、眼科の予約しといてやろうか。
「そんなに動揺したらむしろ肯定してるようなもんじゃない?」
終いには冷たくあしらわれた。
兄ちゃんそんな子に育てたつもりはねぇぞ。
「なんとも思ってないんだったら普通に返せばいいじゃん」
『おう望むところだボケ。一冊でも二冊でも返してやらァ!』
玄弥が単純…と呟く声はもう聞こえなかった。
こういうときに限って近所で出くわしてしまう。
いつも無視するのに、あいつは懲りずに手を振ってくる。
いや、今日は無視するわけにもいかねぇか。
『A』
仕方なしに声をかける。
なぜか緊張していたのは知らないふりをした。
「…な、何?」
明らかに驚いた顔をするAに本を押し付けた。
『…ずっと持ってて悪い』
「わ、ありがとう!」
まだそんなふうに笑えるのか。
『じゃ、』
「あ、実弥…おわっと」
Aが袖を掴んできて、そのままつんのめる。
つい腕が出てしまう。
ふわっとAの匂いが鼻腔をくすぐった。
すぐに手を離すが彼女は俺の袖を掴んだままだった。
「ご、ごめん…あの、話しよう。これで最後にするから」
最後かよ。
ここでまた拒否すれば良かったのかもしれないが
俺は完全に動きを止めてAに向き直った。
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