私の番 ページ33
実弥がよく分からない。
いや、分かってるんだけど、分からない。
『うさごえもん、これっていったいどういうこと』
視線があっているはずなのにあっていない。
目の前のぬいぐるみはただ虚空を見つめるばかりで
なんだか馬鹿らしくなってくる。
これだったら実弥の方がよほど見てくれるな。
いきなり優しかったり素直だったり、
振り回されているのは私の方では?
『実弥のやつ…魔性かよ……』
もんもんと悩んだ。
なによりも昨日の、お見舞いに来た私をすんなり受け入れた彼はなんだったんだ。
熱のせいなのは知ってるけど。
心底安心したような、幸せそうな
…そうだ、救われたような顔をして。
自惚れなんかじゃないよ、本当にそうだった。
実弥が自分から苦しんでるのは知ってる。
それがいつか幸せに繋がるとでも思っているんだろう。
でも、たまにその苦しみから解き放たれたいと思ったとして
私といることで、少しだけ救われるのだとしたら。
『…私といることで?』
それが結論だ。
ずっと見えていたけど見えないふりをしていた。
実弥の言う馬鹿げた幸せとやらのために。
でも、多分
実弥を救えるのは私しかいない。
そうだよね。
『よっしゃ』
明日、言おう。
明日無理だったら明後日。
実弥が好きだって言ってくれた時のことを思い出す。
それから、別れ話をした時のことも。
あの時も言ってもらったんだしね。
たまには私から言わないと。
『大丈夫、怖くないよ。全然怖くない』
本当は怖い。
でも、もう迷ったりしない。
もう情けない私はやめるから。
拳を握った。
『見てろよ』
実弥の、存外可愛らしい笑顔が頭をよぎった。
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