空白-見舞い ページ31
『こんにちはー』
不死川家のインターホンを押すのは久しぶりだ。
大学で実弥に会えなかったから、服を返しに来ただけなんだけど。
「あ、津城さん。こんちは」
『玄弥くん、これ、実弥の…』
「ちょうどよかった。上がっていってくれません?」
『え』
実弥が寝込んでしまったらしい。
だから見てやってほしいとのことだ。
私が行ったところで…とは思うけど、私のせいでこうなったようなもんだしなぁ。
てかこじらせちゃ駄目って言ったじゃん。
『お邪魔しまーす…』
わ、ほんとに寝込んでる。
「…A?」
『実弥、上着返しに来たよ』
「おう…」
『じゃあ』
用件はもう終えたのですぐに部屋を出ようとする…が。
「もう行くのか?」
足がぴたっと止まる。
振り返ると縋るような目で見られて引き返せざるを得ない。
『どうしたの…しんどいの』
苦しそうで心が痛い。
おでこに手を当ててみる。
『あっつ』
「つめて…」
気持ちよさそうにしているから、首にも手を付けると
実弥は私の手を取って自分の頬に当てた。
『実弥?』
これは熱でおかしな行動をしているんだろうけど、
手に顔を擦り付ける実弥が可愛い。
ずっと風邪をひいててほしいとすら思う。
「Aが気にすることじゃねェよ」
『うん…?』
「こうして見舞いに来て貰えんならむしろ良かった」
『へ?』
良かったってどういうこと?
「…って、言えたらいいんだけどなァ」
『言ってるじゃん…ねぇ、夢か何かだと思ってる?』
そこで実弥の表情が変わった。
「夢じゃねぇの?」
『私は本物だよ』
きょとん、と聞こえてきそうな顔だ。
笑いを噛み殺しながら言うと、実弥は確かめるように私の手をにぎにぎとする。
『分かった?』
「…」
あ、固まった。
しばらくすると気まずそうに手を離した。
それから寝返りをうってそっぽを向いてしまう。
「うつったらどうすんだァ…帰れ」
『ぷっ』
変わり身のはやさに吹き出してしまった。
というか耳が赤いから説得力がない。
『…てかさ、夢だと思ったってことは
私が夢に出てきたことがあるの?』
「……」
実弥は何も言わずに布団を頭から被ってしまった。
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