好きで溢れて【鬼滅の刃_短編集】

好きで溢れて ページ49

「怪我は」

『…大丈夫、ありがとう炭治郎』

鬼殺隊員の私は、鬼との戦いで窮地に陥っていたところを炭治郎に助けられた。
間一髪だった。

「本当か？動けなかったようなのに」

『あ、あれは』

「本当に大丈夫なら、応戦できたんじゃないのか？」

正面から目を合わせられると、何も言えなくなる。

『怪我がないのは本当。
…もう、戦いたくなくて』

強くなれない日々、護れるはずの命を取りこぼす日々。
生きている意味がどんどん分からなくなっていく。

『私…もう、私を好きになれない』

「…A」

炭治郎は黙って話を聞いてくれた。

それから、優しく笑って言った。

「自分を許せなくなるってことは、それだけ真剣に自分と向き合っているんだな。
偉いな、Aは」

堪えきれずに涙が溢れる。

「でも、俺が来たとき、安心したような匂いがしたよ。
…死にたくないんだよな」

『うん』

全部お見通しだった。

「俺にも自分を責めてしまう時がある。
どうしようもなく苦しくて、消えてしまいたくなる」

『炭治郎も？』

「あぁ…無力で、腹が立つんだ。なんで俺はこうなんだって」

私とおんなじだ。

「でも、そんな俺のことでも必要としてくれる人がいるんだよ。
だから死ねない…竈門炭治郎は終われない」

『わ、私も。炭治郎が死んだら嫌だよ』

炭治郎が私を庇って血を流した時も、怖かった。

「ありがとう…Aも同じだよ」

『…うん』

助けてくれてありがとう、と涙ながらに頭を下げる人。
遠いところから励ましてくれる家族。
ずっと隣で歩んできた仲間たち。

いろんな顔が、浮かんでくる。

『そうだね。…私、気づけなかった』

炭治郎は、頷くと私の手をそっと握った

「Aが自分を好きになれないなら、俺がその分Aを好きになるよ」

『本当？』

「もちろん。だから、約束だ。
Aも、好きを増やしていこう。
こんな毎日を過ごしているけど、すこしでも笑えるようにさ」

笑えるかな。

何かを嫌っては、痛みばかり感じていた日々を
愛せるようになるかな。

きっと、できるよね。

炭治郎が、みんながいるから。

『うん。ありがとう！』

炭治郎はにっこりと笑った。


「…いつか、Aの毎日が好きで溢れますように」

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