好きで溢れて【鬼滅の刃_短編集】

猗窩座．人間の祭り ページ42

『わ、猗窩座！夏祭り！やってるよ！』

「なんだその顔は…俺は行かん」

私は変な鬼らしい。
やたら人間に近く、むやみに人間を襲わない。

人食わないのかって？食うよ。

それとこれとは話が別。

『そう言うと思った。私も行かないよ』

擬態もできないことはないだろうが、完璧ではないし。

「じゃあさっさと離れるぞ、A」

それほど人を食っていないはずなのに私は強くて
十二鬼月に数えられるようにすらなっていた。

正直嫌なんだけどなあ。無理矢理人食べさせられるし。

とまぁ、そういうわけで猗窩座と仲良くなった。

『離れるの？ここにいたいなぁ』

「何を言っているんだ…」

なぜだか世話を焼かれているだけだけど。

『ほら、私お祭り好きだから』

「…」

猗窩座はむっとしながらも、その場に腰をおろした。
人々のはしゃぎ声と提灯の灯り、軽快な囃子。

私も混ざりたいけど、それは叶わない。

『猗窩座、』

ふと横を見ると、猗窩座は目を閉じて黙り込んでいた。
猗窩座も聞きたいんだ。この音を、声を。

「…なんだ」

『ううん。ちょっと待っててよ』

「お、おい A！」

私は灯りの中に身を投じた。


『ただいま！』

「…はぁ。馬鹿なのか、お前は本当に馬鹿なのか」

『何もないからよかったじゃん。はい』

私は手に持ったわたあめを、猗窩座に差し出した。

『ちゃんとお金出して買ったからね、大丈夫』

「人間の金を拾って持ち歩くの、まだやっていたんだな」

再び猗窩座の隣に腰かけ、わたあめを掲げる。変な菓子だなあ。
人間の時にも食べたことがあるだろうが、どんな味か忘れてしまった。

唇で挟むと、案外ベタベタしていることが分かった。

「ん…甘いな」

『そうだね』

猗窩座がすぐにぺろりと平らげるので少々驚く。

『気に入った？』

「…そうでもないな」

不愉快そうにべっと舌を出した。
口の中が甘くべたついて嫌なのだろう。

『口直しに焼きそばでも』

「やめておけ…全く、Aといるとよく肝が冷える」

猗窩座は頭を片手で覆って呆れた顔をした。

『猗窩座がついてくるくせに』

「…暇はしないからな。
俺とお前はそこそこ似ているようだし」

『そう？』

「そうでなければこんな奇怪な真似はしない」

喜んでいいのかな？

「おい、気は済んだか」

『うん。また来よう』

「それはどうだろうな」

祭囃子に心の中で別れを告げ、闇へと駆け出す。
いつか、猗窩座とただ祭りを楽しめたらいいのに。

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