好きで溢れて【鬼滅の刃_短編集】

時透無一郎．手のかかる ページ38

『雨かぁ…』

えー、聞いてないよーひどーい、と周囲から声がする。
鞄に手を突っ込むと、底の方に折りたたみ傘があった。

『さすが私』

入れっぱなしにしてただけだけど。ズボラ万歳。

「入ーれて」

『のわっ！？』

突然私の傘に潜り込んできたのは
幼馴染の無一郎。

『ちょっと、何』

「いや、傘忘れたからさ」

だからって許可もなく入ってこないでほしい。
狭いよ。

「何その顔。
友達の僕が困ってるんだよ、助けるのが普通でしょ」

超厚かましい。

『はぁ、仕方ないな…』

すると、空が光った。

ごろごろごろ

「…雷だ」

『雷だね』

不安を煽られる。

「もしかして怖いの？」

『べーつに』

ちょっと気になるだけだ。

どどーん

『ひっ』

地面を揺らして音と振動が襲ってくる。かなり大きい。

「光ってからそこそこ時間があるし、そんなに近くないでしょ」

『そういう問題じゃない』

「…避難する？」


ばりばりと空気を割くような音がずっと聞こえている。

『止まないのかなぁ…』

喫茶店に避難するも、雷は鳴り続けていた。
雨も風も強くなっているようだ。

「A」

『何？』

「じゃーん」

無一郎の手には紙ナプキンでできた鶴があった。

『すごい、こんなに小さいのに』

「あと、こんなのも」

みるみるうちにうさぎが出来上がった。

『わぁ…そういえば無一郎、昔から器用だもんねぇ』

と、窓からまた強い光が差し込み、雷鳴が響いた。
身をすくめてしまう。

『…』

帰れる気がしなくなってきた。

「A、窓側から移動する？」

『ううん、大丈夫』

「不安がらないで、僕を見て。
僕はAの気を紛らわすくらいしかできないからさ」

無一郎の方に向き直る。
優しく笑ってくれて、少し落ち着いた。

『ごめんね、気を遣わせて』

「いいから、せっかく来たんだから、ケーキでも食べよう。
モンブランが美味しいらしいよ」

『ほんと？食べたいな』

出来るだけ外のことは気にしないようにする。

モンブラン、楽しみだな。

「うん、そのまま笑っててよ」

『？』

「…Aは昔から泣き虫だよね」

「泣いてないけど」

無一郎は頬杖をついて笑う。

「そう
まぁ、Aは手がかかるよねって話」

否定はできない。

『迷惑かけましたよ』

「僕以外のやつに迷惑かけちゃ駄目だよ」

『無一郎にはいいんだ』

「慣れっこだからね」

一生無一郎のお世話になるのも悪くはないけど
なんて変なことを考えていると、モンブランがやってきた。

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