悪魔の私と、私が愛した彼と、お友達の天使と (ページ5)

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"人間"への良心ページ5

「彼」は何の変哲もない、あまり人気のない場所へと歩みを進めていた。優勝した後の余韻が引かないのか、ここに来るまでずっと顔がニヤついていた。
　私は、そんな「彼」の後をこっそりとつけながら、これからどうすればいいのか頭を悩ませていた。
　…本当に「彼」を、自分の我儘で僕にしていいのか。嬉しそうにしながら歩く「彼」を見ると、私達"悪魔"のしようとしていることは本当に正しいのかどうか分からなくなってしまう。
　"人間"の常識と"悪魔"の常識は違う。だから価値観も違うと思っていたのに。気がつけば、彼ら"人間"に対する罪悪感ばかりが募っていく。
　今まで僕になっていった"人間"の気持ちなんて考えたことも無かった。彼らもまた、「彼」と同じ様に夢や希望を持っていたのだろうか。それとも、何か成し遂げたかった目標があったのだろうか。……そう考え出すと、僕になっていった"人間"に対しての後悔や後ろめたさが溢れ出して止まらなかった。
　そうこうしている内に、「彼」はそこら辺にあったベンチへと腰掛けた。私も、「彼」の後ろで足を止めた。
「ふぅ…」
　「彼」は小さく溜息をついた後、ベンチの背もたれにかけ、何かを思い起こす様に何処か遠くを見つめていた。その顔には、まだ微笑が残っている。
「……」
　きっと、これからのことに対して思いを馳せているのだろう。これからどうしようだとか、何処に行こうかとか。
　そんな何も知らない「彼」の様子に、また胸の奥がズキリと痛んだ。無知な者を騙し、陥れるのはいけないと、初めて感じる良心が咎めていた。
(……、やっぱり、無理だわ…)
　「彼」が私の僕になる想像をして、やめた。夢を奪われた、「彼」や「彼」以外の"人間"の、悲痛に満ちた表情が浮かんだから。
　…この先、私は二度とこの「仕事」が出来ないだろう。僕にされる"人間"の事を考えると、心に鋭い針が刺さっているかの様にズキズキと痛んでしまい、手を出す事を躊躇ってしまう。
　……こうなってしまった以上、行動を起こす気にはなれなかった。
(……"人間"を攫って僕にするなんて、)
「ーー私には出来っこないわ……」
　私は、溜息をつきながら小さくぼやいた。その場を離れようとして、「彼」をチラリと見た。
　ーー目に写った肩が小さく跳ねたかと思うと、「彼」は勢いよく顔をこちらへと向けてきた。