悪魔の私と、私が愛した彼と、お友達の天使と (ページ3)

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「彼」ページ3

「それでは、最終決戦、始めます！」
　突然、スピーカーから司会と思わしき声が大音量で聞こえて来る。それと同時にポップな曲が掛かった。
　左側の青年が曲調に合わせて歌い出す。ジョークと罵詈雑言を交えつつ、曲に合わせて言葉を紡いでいった。どうやらただの歌唱バトルではなく、ラップバトルの様だ。
(………)
　正直に言って全く面白くないし、言葉遣いが汚い。品のかけらも無く美しく無い。そんな状況でも会場が盛り上がってるところを見ると、こんなところに来た自分を悔やみたくなった。
　モニターに映る限りではその男の方が有利に動いていた。寧ろ、圧倒的に彼の方が勝っていた。圧勝、と言うやつだろう。
　右にいる少年はどうだろう。彼もまた左側の男と同じくつまらないのだろうか。それともそれ以下か。彼の性格がどうであれ、周りの反応からするにあまりいい期待は出来なさそうだ。
　その少年が歌うために口を開いた。
「……っ！」
　ーー彼は違った。彼だけが違った。
　不意に、心臓の鼓動が早まった。
　少年は、弱点を的確に突き、うまく言葉を繋いで相手を丸め込んでいく。汚い言葉遣いがなく、寧ろ清々しい程の真っ直ぐな言葉で相手を追い詰めていった。
「………」
　私含め、会場にいる全員が少年に圧倒され、言葉を発することができなかった。
　結果は火を見るより明らかだった。右側の、少年に軍配が上がった。
　四方八方から歓声が聞こえてくる。でも、私はそんなことなんてちっとも気にならなかった。
(……彼だわ。彼こそがーー)
　僕にするに相応しい逸材だ。そんじゃそこら辺の"人間"とは訳が違う。
　真っ直ぐなのだ。相手を見据える瞳も、紡ぐ言葉も、態度も。何もかもが、他の"人間"とは違った。
　見事、図体だけが取り柄そうな相手を打ち負かし、優勝した少年は、何処からかやってきた機材を持った様々な"人間"達に囲まれ、やれ「感想を聞かせてください」だの、やれ「優勝おめでとうございます」だの、様々な言葉に対応していた。そんな中でも、その少年は心底嬉しそうに対応していた。
　本当なら、今すぐにでも彼のことを誘惑して僕にしてしまいたかった。だが、こんな囲まれている中に自分自身が割って入っていくことは難しいだろう。それに、場所を問わず無理矢理誘惑してしまえば、自分の欲しく無い"人間"も勧誘してしまう恐れがある。
(今はやめといた方が良さそうね…)
　私は、少年が一人になるまで、少し離れたところで彼を見つめていた。