和平交渉 ページ17
理解を求めて隣を見ると、同じくこっちを見てきたBFと目が合った。どうやら思っていた事は一緒の様で、この状況について行けてない。
こちらの事はお構い無しに、向こうは話を続けてくる。
「愛する女の死体が目の前に出来るよりはいいだろ?それとも、その恋心とやらはハッタリだったのか?」
男はドーナツを齧りながら、BFの事を挑発する。流石の彼も頭に来ていた様で、その場に立ち上がり"天使"の男を睨みつける。
「そんな訳無いだろ!」
「じゃあ俺が着いて行くことには納得してくれるよな?」
「っ…」
BFも負けじと男に向かって言い返すが、どうやら男の方が一枚上手だった様だ。余裕そうな表情は崩さず、逆に条件を突きつけられる。挑発によって頭に血が上っていたBFは、まともな判断が出来なかったらしく唸る事しか出来なかったようだ。
「…ああ、いいよ。好きにすればいい」
結局、折れたのはBFの方だった。声色に警戒や疲労感、諦めが混じっているのが分かる。
「じゃあ交渉成立だな」
対して男の方は、ニヤリと勝ち誇ったかの様な表情をして言った。そして、手元に残っていた最後の一口分のドーナツを口の中に放り投げ、モグモグと咀嚼した後飲み込んだ。
「ごちそーさま。このドーナツ随分甘いんだな」
(…言う事はそこなの?)
てっきりBFや私に向かって何か良くない事を言ってくるか、或いは満足してそのまま居なくなると思ったのに、ドーナツに対して感想付けるなんて思いもしなかった…。
しかも感想も感想だ。ドーナツは甘いものだから当然甘いが、随分とはどう言う事だろう。箱に残っていた最後の一個は、確か何も付いていない揚げたてままのドーナツの筈だ。また他の店舗のドーナツとは違って、甘さ控えめの生地の筈なのだが…。
(……食べた事、無いのかしら…)
私も彼に勧められるまでは何とも思っていなかったから、実際有り得そうではある。もしくは甘い物が苦手だとか。だがそれでわざわざ甘いもののドーナツを食べるだろうか。
「…あっそう…」
疲労困憊(ひろうこんぱい)のせいなのか、普段明るい彼から聞いた事のない声色が聞こえた。心の中で、彼に対して労いのエールと謝罪を述べる。
「お前…、本当に彼女には何もしないんだよな?」
「別に何もしねぇよ」
男が呆れた様に言う。そして私たちに背を向けて去ろうとする間際、あぁ、と呟いてまた振り返った。
「俺の名前はピコな」
"天使"の男、ピコは得意顔でそう言った。
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作者名:適当でぽよぽよ | 作成日時:2021年7月25日 18時