一触即発 ページ13
「ーーオイ!何してるんだよ!」
隣に居た彼が、目の前の男の服を鷲掴みにして怒鳴り上げた。普段の、人当たりの良い彼からは見当もつかない程の剣幕だった。それに対して、男は今の出来事に少なからず驚いていたのだろう、切れ長と思っていた目を大きく見開いた。が、すぐさま皮肉な笑みを浮かべてBFの方を見た。
「驚いたな…。まさかこんなヤツが俺のこと見えてるとはな」
あたかも余裕そうな態度で男は言った。その口調は人を馬鹿にしているものだった。それに余計に腹を立てたのか、BFは服を鷲掴みにしている手に、更に力を込めていた。白ばんでいるその手は、力の行き場をなくして小刻みに震えている。
「てことは、隣にいるそこの女のことも見えてるんだろ?」
「だと言ったら?」
「…なんでその悪魔といるのか説明して貰おうか?」
怒りの余りなのか、BFが発した声は普段よりもトーンが低い。一般人なら怖気付きそうな程の雰囲気だったが、男の方はそんな様子も無く話を進めてきた。
「…それは俺と彼女の意志だ。だから手を出すな」
「…ふーん?」
BFの態度が気に食わなかったのか、或いは不可解だったのか。男は怪訝そうに、目線を私へと向けてきた。表情や言葉、態度全てが不透明で何を考えているのか全く読めない。
「…聞こえてなかったのか?手を出すなって言ってるんだ」
さっきよりも更にトーンが低くなった声で相手を牽制するBF。彼がどんな表情をしていたのかは後ろ姿で分からなかったが、現状の空気も相まって恐ろしいものだろうと予想は出来た。男の目線も彼の方へと戻る。
緊迫した状態が続く中で、先に声を上げたのは天使の男だった。
「ハッ!」
突然笑い飛ばしたと思ったら、さっきまでひしひしと感じていた殺気と邪悪な雰囲気が消えた。
「随分面白いな」
男はそういうと、こっちに向けていた銃を降ろした。表情も、最初に見た皮肉めいたものになっていた。
BFの、男の服を掴んでいる手の力が緩められていくのが見えた。それでもBFの警戒状態が続いていて、まだ張り詰めた空気が漂っていた。
「そう睨むなよ。少なくとも、今やるつもりはねぇよ」
男はまた笑い飛ばし、まるで何事も無かったかの様に私達に背を向けて歩き出した。さっきの出来事が嘘のように思える変わり様に、私達は呆然としてしまった。そうしている内に、男が歩きながら顔だけをこっちに向け、ニヒルに笑いながら、
「んじゃ、またな」
と言った。
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作者名:適当でぽよぽよ | 作成日時:2021年7月25日 18時