となりの

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(knt)

「けほっ、けほっごほ、ひゅ、げほ」

部屋を開けた俺とまさとを待っていたのは、あり得ないくらい苦しそうに咳き込み、呼吸も乱れて始めているまりんの姿だった。

「まりん！」

叫ぶと同時に、慌てて駆け寄る。

「しっかりしろ！深呼吸して！」

「ひゅ、ふ、こほ、け、ひゅ、ふ、こほ」

「まりんカバン触るよ！」

まさとの声に、まりんが微かに頷くのがわかる。

きっと保険証や吸入器を探してくれているのだろう。冷静な奴がいて助かった。

依然辛そうに咳き込むまりんの背をさする。

「まりん、深呼吸して、吸って、吐いて」

「ひゅ、こほ、ふ、はふ、こほ、」

「よしよし、吸って、吐いて」

「ふ、ふ、こほ、ふ、けふ」

次第に咳が減っていき、荒かった呼吸は幸いにもそれほど経たないうちに落ち着いていった。


「…昔、喘息持ちで」

息を整え、草臥れた様子で壁にもたれかかったまりんが、暫くしてぼそっと言った。

疲れ切った目を動かさずに続ける。

「たぶん、ぶり返したんやと思う。アルコールで悪化するとかもあるみたいやし」

心配かけてごめん、と吐かれた言葉が静かな部屋に重く転がった。

「…だから」

「…だからあれだけ酒控えなよって言ったじゃん！！」

ややあって、重い沈黙の満ち満ちていた部屋にまさとの怒声が響いた。

普段からよく笑い滅多に怒らないまさとの怒鳴り声に思わず身を固める。

「だから何度も飲みすぎちゃダメって言ったよね！？喘息があったなんて俺は知らなかったけどまりんはわかってたでしょ？何で控えなかったの！？」

まりんが少し眉を顰める。

「カナタもカナタだよ！喘息のあるなしの問題じゃないからね！？お酒って飲みすぎると体を壊すんだよ？どうして量を控えないの！？仕事した後で体力使い切ってるのに！」

見たことのない勢いで、ぽろぽろ涙を零しながら捲し立てるまさとに、俺もまりんもなにも言えなかった。

何かあってからじゃ遅いんだよ、ねえ、とまさとが震えた声で呟く。

「…ごめん」

俺に言えたのはそれだけだった。

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