酸いも甘いも (ページ9)

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リング：まぐろページ9

ぱたぱたとしずくが傘を叩く。
急に降り出した雨は
傘を持たない人の肩を濡らした。

歩く度にぴしゃぴしゃと
足元ではねる水滴がうっとおしい。

｢あ…の、｣

そんなことを思って
下だけを見て歩いていたら
前から声をかけられた。

雨に打たれて少し束になった前髪を
横に流しながら力なく笑う君が立っていた。

｢A…｣

｢久しぶり。元気してた？｣

ぴしゃぴしゃと足元ではねる水滴をよそに
ごめん、と少しだけ俺の傘に入ってきた。

いつだって君との距離感は難しい。

｢急に降ってきてびっくりしちゃった！｣
天気予報見てなかったことを後悔するまつげは
相変わらず長い。

君の頬に張り付く毛先が
気になって仕方なかったけど、
乾いた自分の指先を
手のひらに握りとどめた。

雨音の隙間で近況報告をする君の声は
頭には入ってこなかった。

｢それでね、このあいだ、｣

静かな夜。
雨の音だけ。

キラキラと話し続ける、
少し冷えた君の唇に自分のを重ねた。

困るよね、こんなの。
また君を傷つけた。

ちょっと触ってみたいだけだったのに。

｢…だから、私達もう会えないね。｣

静かに

小さく

しっかり

温めた唇からこぼれた現実。

落ちた髪を耳にかけ直す左手には
君の幸せが光っていた。

｢さよなら、君も幸せになってね。
バイバイ｣