ブランデー：八木 ページ4
ライブの打ち上げのあと、
成り行きで2人で飲むことになったAちゃん。
だいぶお酒も入って彼女の頬も桃色になってきた。
｢ひゃ……｣
｢うそ、ごめん……｣
彼女の右の横っ腹、醤油の丸いシミが広がる。
｢だ、大丈夫です、、！｣
そんなわけない。
泣きそうな顔してる。
おしぼりで拭くけど
もちろん取れるはずもなくて。
｢あ、あの、うち、近くだから、さ｣
と、不本意ながらも我が家へようこそ。
てきとうに服貸して
洗濯機を回した。
｢ほんとごめんなさい！｣
という最高にダサい俺の音頭で
今日何度目かわからない乾杯をした。
急に来た他人の部屋で
落ち着かない様子の彼女は
｢え、彼女さんいるんですか？！｣と
あきらかな女もののTシャツを見つけて
動揺している。
｢ぁや、うんまあ、いた、が正解かな｣
吹っ切れた、は、つもり、で
やっぱり胸の奥はきゅうっと音がする。
｢最近なんですか？わかれたの｣
聞かない方がいいですかね、
と小さく付け足されたけど
お酒のアテに大公開してやった。
｢……そうだったんですねー｣
Aちゃんは時々相槌を打ちながら
最後まで聞いてくれた。
ベッドにもたれかかって
抱えた膝の上に両肘を立てて
グラスを揺らした。
ときどき触れる君の肩の温度が
くすぐったい。
｢……早く忘れたくないですか？｣
アルコールに飲まれて
赤く潤んだ瞳は魅力的だ。
｢うーん、そうだ…ね｣
コトン、と置かれたグラスと隣でふわりと揺れる華奢なピアスが俺をどんどん酔わせる。
俺と同じ柔軟剤に混ざって
甘い香りがふたりを包んだ。
どっちが悪いの？
知らない。どうだっていい。
どちらからともなく
重なる唇に
体温は急上昇。
遠くで働く洗濯機は
もうとっくに止まっていた。
ハラリと落ちる君の髪を
耳にかけながら
何度も
何度も
キスをした。
｢んん、｣
隙間で漏れ聞こえたAちゃんの声も
もう誘ってるようにしか聞こえない。
ベッドにゆっくり押し倒して
少しだけ耳を噛んだ。
｢や……｣
｢……だめ？｣
何も言わない代わりに
俺の首に腕を回して引き寄せた。
もう誰にも止められないし
止める権利もない。
首筋をなぞって
サイズの大きいめくれた
Tシャツの隙間から手を入れた。
少しずつ荒くなるAちゃんの吐息と
ときどき聞こえる甘い声、
ほんとにズルい。
全部、ぜんぶ、ゼンブ、
アルコールのせい。
君も俺も。
そうでしょ？
忘れさせて。
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作者名：あーちゃん | 作成日時：2016年10月30日 1時
