歩む道。8

385 side Nissy ページ35

処置を終え、
両親と別れ。



Aとふたり、
家に戻ってきた。



結局。

父さんたちは空港近くのホテルに泊まり
明日の便で帰るらしい。



迷惑をかけてごめん、と言うと
傷の心配をされる。
大丈夫だ、と伝えると
Aを気遣う言葉をかけられた。



特に母さんは、
ずっとAのそばにいてくれたらしい。

俺の処置中、
血の気の引いた顔で
唇をぎゅっと噛み締めて声も出さずに
涙を流していたらしい。






西「おかえり、A。」


いつものように、
俺からそう言う。



なのに、俯いたままのAは、
ただいまを言わない。



西「A？」



呼びかけると震える声で言った。




「ごめん…なさ、い。私のせい…。」



全然こっちを見ようとしないA。




西「何言ってんだよ。


それより、おかえり。」



右腕の怪我は思ったより深く
少し縫った。

痛くないといえば嘘になる。
でも、怪我をしたのが俺で良かったと
思う気持ちは変わらない。



「でも…。」



西「もう気にしないの！平気だから。

ほら？」



左手を伸ばしてAを抱き寄せる。
顔を覗き込んで、



西「ただいまは？」



そこまでしてやっとAは俺の目を見た。



「…ただいま。」



西「よし。」



やっと聞けたその言葉にちょっと安心して
二人でリビングのソファに座った。




西「怖かったよな、A。
ごめんな。」




俺がもっとうまくやれてたら、
あいつとAを会わせることなく
済んだかもしれない。



無言のまま左右に首を振るA。




「どんなに乗り越えられたと思っても。
もう大丈夫だと、しても。


きっと、これからずっと。

消えない何かを抱えて
いくんだと…

思ってる。」



Aは自分で自分の体を抱きしめるように
腕を回した。
その体は少しだけ震えている。



西「うん。そうだよな。」



「でも…。

彼と話せてよかった、と思いたい。」



こういう時。


Aはとても強がるんだ。
脆くて儚く見えるのに
いつも一人で抱えて消化しようとする。



それは、
AがAの人生の大半を
そう過ごしてきたからかもしれないけど。



これからはふたりだから。
ちゃんと色んな気持ちを分かち合いたい。



西「うん。そうだな。」



「私といると…面倒くさいでしょ？
こんなことばっかだし、
しなくてもいい怪我、しちゃうよ。」



西「でも、西島Aになるんやろ？」



「…なります。」

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