歩む道。7

338 ページ38

たかが東京へ戻って３日後。


私は順調に回復して
仕事に戻っていた。


ランチタイムが終わり、
カウンターでお皿を拭いていた私に、


か「Aちゃん。これ」


かなさんが私に手渡したのは１通の手紙。



普通の封筒に


“速水A様”


と書いてある。



か「隆弘くんから私達宛てに
届いた荷物の中に入っていたの。


Aちゃんへ渡してほしいって。」



「そうですか…。」



あれから何度かメッセージのやり取りをしてるし、
改まって手紙だなんてなんだろう？


封筒を裏返してみると封はされておらず、
私は特に躊躇いもせずその中身を取りだした。




その紙を広げた瞬間、
頭が真っ白になった。

そして、
体から力が抜けて座り込んでしまった。




か「Aちゃん？！」




たかから届いたものは。






たかの名前が記入された
婚姻届だった。






同封されていた手紙には、



【速水A様


Aからこの万年筆をもらった時、
俺がこれで一番初めに書くものを
心に決めていました。



Aもあの万年筆で
最初に書くものをこれにしてもらえたら
すごく嬉しい。



Aが“西島A”になって
俺と本当の意味での家族になるまでには
まだ時間がかかるかもしれない。



でも俺はずっとAのそばにいる。


いつか、これを一緒に提出しに行こうな。



西島隆弘】




手紙を読みながら、
涙が流れて止まらない。




か「隆弘くんね。

この前ここから帰る時、
私と拓実に言ったんだよ。

俺の愛する人を
大切にしてくれてありがとう。


俺の未来の奥さんを
どうか宜しくお願いします。

ってね。」



そのときにはもうこれを書くって
決めてたんだね
と、しゃがみ込んだままの私を支えてくれて
椅子に座らせてくれる。



拓「Aちゃんさ、
速水Aから西島Aになるんだなぁ。

そっかぁ。
結婚ってそういうことだもんな。」



そう言われて、
一つの考えが浮かんだ。



たかはここにいる間、
あのフラッシュバックについて
私に何も聞かなかったけど、
きっと知っていたんだろう。




あの人が私のことを“速水さん”
て呼んでいたから。
私が男の人に突然
名字で呼ばれることが
怖いことを知ってる。



だから敢えて今。



私は西島になるんだから大丈夫だよ
って、伝えてくれたんだと思えた。


たかの深い愛情に
体が震えるくらいの喜びを感じる。


まだ見えない幸せが
少しだけカタチになって見えた気がした。

339→←337

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す