歩む道。7

328 side Nissy ページ28

鎌倉に着いて、
拓実さんの店のドアを開ける。


西「遅い時間にごめん。」


そう言えば、
大丈夫だと笑顔で答えてくれる拓実さん。


西「Aは？」


と聞くと２階の部屋で眠っていると言う。
店の奥からかなさんが出てきて、
Aの部屋へと案内してくれた。



小さくノックをしても返事がない。


そっとドアを開けると、
少しだけ赤い顔のAがベッドで寝ていた。



か「熱がでちゃってね、
知り合いの先生に診てもらったんだけど。

特に感染症でもないし、
疲れとか精神的なものじゃないかって。」



Aのおでこに触れて
少し下がったかな、なんていうかなさんを
なぜか俺は部屋の入り口で見ていた。


足が固まったように動けなかった。


か「隆弘くん？」



逢いたくて逢いたくて
たまらなかったAがそこにいる。


それだけで視界が滲む。




Aの傍から立ち上がったかなさんが、
俺の後ろに回りぽんと背中を押す。


か「Aちゃんね、
ここにきてからすごく頑張ってた。

最初の頃からしたら
表情も明るくなったし、
仕事も楽しそうにやってくれて。


時々うちの子にピアノ弾いてくれたりね、
お得意様のご近所のピアノの先生が
教室でバイトしないかって話もあるんだよ。」



新しい事業のために
店にピアノを置きたいという拓実さんに、
もしよければ、と自分のピアノを提供したA。


役に立って嬉しい、
そう笑っていたAの顔が浮かぶ。


か「隆弘くんが連絡くれてよかったよ。

絶対に今回のこと言わないでって
Aちゃんが言ってたから、
私たちからは連絡できなかったもん。」




Aのフラッシュバックを間近で見たかなさん。


何もしてあげられないって
こんなに辛いのね、って悲しそうに笑っていた。




少しでもそばにいてあげて、



そう言ってかなさんはAの部屋から出て行った。



Aに近づいて、そっとそばに座る。


おでこに触れると少し熱い。


俺がだいぶ前にあげたくまのぬいぐるみが
Aの隣に寝ていた。



西「A。久しぶり…ってのもなんか変か。」



少しだけふっくらしたAの顔と、
離れていた時間の分だけ伸びた髪。


きっとここで過ごした日々は
Aにとって穏やかなものだったはずなのに。



Aの頬にそっと触れると、
まつ毛が少しだけ震えて、
その目がゆっくりと開く。



西「A？」



起こしてしまった罪悪感と、
起きてくれてその目に俺が映る喜び。
その両方を感じていた。

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