歩む道。3

130 ページ30

ちょっと待っててと
冷たい水を買ってきてくれて、
私に手渡してくれた渉先生。


渉「久しぶりに会ったら、
いきなり倒れそうになるし、
驚いたよ。


少し落ち着いた？」



目の前で優しく微笑むこの人は、
両親が亡くなった時私を助けてくれた
弁護士の先生、
長瀬渉さんだ。



「ご迷惑をかけてしまってすみません。」



渉「たまたま、
ここの近くのクライアントに寄った帰りでさ。

それにしても、
よくあるの？



過呼吸。」




「ここしばらく、なかったんですけど…。」




と俯く私。




渉「さっき、女の人とぶつかってたの、
Aちゃんだよね。



それが原因？」


さっきの出来事を思い出して
ぞわりと体が震える。


ぶつかったように
見えたんだ…。


でも、初めてじゃない。
あの押し出されるような感触。




渉「あ…ごめん、思い出させちゃったね。」



渉先生は、自分用に買ってきていた
コーヒーを一口飲んで、話を変えた。




渉「それにしても、
しばらく会わないうちに
綺麗になってて驚いた。



最近はどう？
元気にしてたの？」




「はい。」



そこから少し近況を話して、
そろそろ仕事に戻らなくちゃと
先生に伝える。


事務所まで送ってくれるという先生と
並んで歩く。


にこやかだった渉先生が、
真面目な顔をして言う。



渉「困ったことがあれば、相談して。
いつでも電話くれていいからね。


あ、しばらくは週に1度、
この近くに来るから。

ランチくらいなら行ける？」



「はい。時間が合えば是非！


彼も先生に一度挨拶したいって、
前に言っていて、
そのままになっちゃってるので。」




くすっと笑った先生が、



渉「僕の役目ももう少しで終わりだね。

少し寂しいな。」



先生はそう言って、
人波に消えていった。

131→←129

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す