シンデレラエクスプレス

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トングを持つ手の美しいこと。
ああもう、何もかもが完璧。



「はー、俺 腹いっぱいになってきたぁ」

「えっ…、」



嘘でしょ？
ひたすら焼いてひたすら私のお皿に運んでくれてただけですよね？



「全然…召し上がってない気が、」

「俺、もうオッサンだからそんなばくばく食えねーの。カルビなんか2枚が限界」


なんて自虐的なことを言ってンフフと笑う部長。


もー、この人のどこがオッサンなの？
こんなベビーフェイスなオッサン見たことないってば。

それにあのお腹、ペッチャンコだよ？
部長と同期の川上さんは臨月みたいなお腹してるのに。
って考えれば川上さんはオッサンの部類かもだけど…。

なんか、比べちゃいけない気がする。

すでに冷めたスープをフーフーして、あっ…と気づいて恥ずかしそうに笑ったり
お腹いっぱいって言うわりにビールはゴクゴクと水のように飲んでお腹をポンポン叩いたり。

存在が癒しな人間っているのね。
一緒の空間にいるだけで、気持ちがホッコリする。


…好きだなあ。




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「ほら、どんどん食いなさい」


貧乏気質な私に高級なお肉を残すという選択肢はないけれど、かなり限界。

でもニコニコと勧めてくれる部長の気持ちを無下にもできない。
お皿に載せられ続ける高級肉を黙々と口へ運ぶけど。



「もうそろそろ…、これ以上は」

「ん？おいしくない？」

「いえ！とってもおいしいです！
でもこんなの食べ慣れてないからお腹がびっくりしてます！」

「お腹ってびっくりするの？」

「するんです！」


いつも質素倹約で生きてる私。
今日の夕食で一体何日分の栄養をとったことになるんだろう？




「ンフフ」

ああ、笑われた。


ヤケクソな気持ちでもう一枚お肉をお腹を納めたら「フフ」とまた笑われる。

なんでだろ。
とりあえず、私も笑ってみる？


「あはは」

「フハハッ。…もーほんと、可愛えーなぁ〜」

「か、かわ…っ？！えっ？」

「フフ」

「…」



多分、酔ってる。
相当酔ってる。

でも部長、そんなに飲んだっけ？
さっき3杯目の生中を頼んでたような。

あれ？打ち上げの時は5杯飲んでもケロッとしてたよね？



んー？




「フフ」

「…」



部長の目 トロトロしてる。
この眼差し、甘ーい視線に見えなくもない…が。

いやいや。

こんな棚ぼたな夕食に誘ってもらっただけで充分に身の程知らずなのに自惚れるなんてありえない。
バチが当たる。


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