～小さな世界～【永瀬廉】 (ページ12)

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今日は

少しだけ部屋に入る事を躊躇った。

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昨日の今日で

私はどんな顔をして永瀬さんに会えばいいのか。

目を合わさない

話もしない永瀬さんに

私も少し慣れ始めていた矢先の事だったから。

＿＿ありがとう。

なんだか

妙に緊張をしている自分が居た。

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普通に

いつも通り

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「おはようございます」

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部屋に入ると

相変わらず上半身を起こして

窓の外を眺めている永瀬さんの姿。

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昨日は

あれからちゃんと寝られたのだろうか。

「永瀬さん朝食です。」

永瀬『……』

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声をかけても視線の先は変わること無く

昨夜の永瀬さんがまるで嘘だったかのように

感情を封じたいつもの光景。

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私は椅子に腰をかけて黙って

永瀬さんの横顔を見つめた。

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すると、

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永瀬『食えば。』

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窓を見つめたまま

永瀬さんは冷たく口を開く。

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「…っえ？」

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朝日に照らされた横顔が

ゆっくりとこちらに向けられて

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永瀬『ロールパン』

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逆光して暗くなった永瀬さんのお顔は

あまりにも美し過ぎて

私は思わず息を飲み込む。

「……なにを言っ」

言葉を遮るように

ゆっくりと伸びた右手はそっとロールパンを掴む。

永瀬さんは私にそれを差し出して、

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永瀬『好きなんやろ？』

「……」

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私はボーッとした意識のまま

静かにそのロールパンを受け取る。

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永瀬『あげる。』

「……。」

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看護師の私が、

患者様に食事を与えられる。

これは一体、どういう状況なのでしょうか。

「…ありがとう…ございます。」

摩訶不思議な出来事に

私の脳も追いつかないでいた。

冷静な判断など出来やしない。

それに永瀬さん。

私がパンを口に運ぶまで見届けるつもりなのか、

じっとこちらを見ているではないか。

…え。

…食べるべき？

…これは食べるべき？

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「……。」

永瀬『……』

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