8月の群青【緑】 (ページ6)

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5「初見のショパン」ページ6

そんな話をしながら音楽室に着いた。

ピアノの周りには、確かにさっきまで弾いていたように楽譜が散らばっていた。

『あー、強風で楽譜がバラバラだ』

強風のせいだったらしい。

楽譜を整頓してから、彼女はピアノの前に座った。

『ショパンの木枯らしっていうの。”木枯らしのエチュード”とも呼ばれてるよ。行くね～』

「うん」

少し優しい入り方で始まった。
その後、まるで上から落下しているように、転がっていように音が衝撃的に下がっていく。
木枯らし・・って、冬にかけて吹く強い風のことだったはず。
まさに名の通りに、スピードを感じるし、この曲を四季に例えるなら寒くなってくる冬の初め。

朝に聞いたら目が覚めるような曲だった。

しばらく頭の中で特徴的なメロディが駆け巡った。

「・・・すごい」

思わず呟いた。

『っはぁ～、緊張した！(笑)自分で誘っておいてだけどね』

胸に手を当てて、一息つく君。

「これ、毎日弾いてるの？すごいね！」

『色々弾くよ。練習だから。阿部くんが毎日勉強するのと一緒だよ』

「そっかぁ・・」

僕はピアノが弾けないからこそ、勉強とは異次元な練習にただ感心するばかりだった。

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『あれ、今何時?』

「えっと・・8時みたいだね。・・・・って、もう8時！？」

やばい、まだ何も予習が完了していない！

『大丈夫だよ、遅刻の時間じゃないから』

「そうじゃなくて！学校でやるはずの予習時間がないかも！」

『予習なら昨日してるもんだと、』

「昨日もしたけど今日もやるの！今日は英単語の小テストの日だし」

『っあー！それは忘れてた！！』

とにかく急いで教室へ。

さっきまで優雅にピアノに浸っていたとは裏腹に、バタバタと音楽室を片付けて、階段を駆け下りる。

『阿部くん英単語の今日の範囲分かる？』

「122ページの9単語」

『え、すご。単語数まで覚えてんの？』

「急に立ち止まらないでよコケるから」

全く準備してなそうだったAさん。ピアノを聴かせてくれたお礼に助け舟を出すことにした。

「これ、貸してあげる」

『英単語ノート？』

「たぶん、単語帳を眺めるよりは覚えやすいかも・・たぶんだけど」

『いいの？ありがとう！！』

とびきりの笑顔を見せた君は、3組へと戻っていった。

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