宵待草 (ページ8)

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「Aと申します」

風磨「ここは華族のお嬢様が来るとこじゃないんだけどねぇ」

頭をかきながら薄く笑う。

兄からの耳打ちによると彼も名家の出身らしい

「何故、あなたは此処を？」

風磨「嫌気がさした。あの生活に」

短く答えた風磨さんは

懐から取り出した煙草に火をつけた。

風磨「おい、健人。妹にも博打を教えるのか」

健人「いや？これから街を散策するんだよ」

風磨「ならなんでここに」

健人「用心棒は必要だろう？」

お兄様は余裕の笑み。

風磨さんは煙と一緒に大きな溜息を吐いて

風磨「…行くぞ」

部屋の奥で博打に興じる人々に何かを言うと

扉から出て行った。

健人「風磨なら大丈夫。きっと面白いところに連れていってくれるよ」

相変わらずの笑みを浮かべるお兄様

私の右手を取って扉を開けた。

…その数分後

私は

夜の東京に一人、取り残された。

行き交う人々が私の顔を不思議そうに見つめる

なんて失礼な人達、と憤慨する暇もなく

店の灯りに包まれ

往来の人々に揉まれて

右も左もわからない

締め付けられるような心細さに

座りこんでしまいたかった。

お兄様と風磨さんは

街を出た途端に

上等な着物を着た、

けれどどこか下品な女性達に連れられ

角へ曲がって行ってしまった

振り切ってもなお群がる女性達に

断る姿勢のお兄様とは裏腹に

隣の女性の肩を抱いて乗り気な風磨さん

近づこうとしても女性達に跳ね返され

いつのまにか一人で立ち尽くしていた。