曖昧な彼女 (ページ4)

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俺が声優デビューした2008年

事務所のとある部屋に間違えて入ると
とてつもない美女がおにぎりを食べてた

これが俺とレイが初めて会った瞬間

美人でもおにぎりは食うよなとか

小さな口を大きく開けておにぎりを食べても
美人は顔が崩れたりしないんだなとか

ふざけたことばかりが頭に浮かぶ

おにぎりにかぶりついたタイミングで扉を開けたので
目の前の美女も俺も共に一時停止してしまい

俺が笑いを堪えてリアクションを迷ってると

盛大に彼女が笑い出した

『はははっ笑
そんなことある！？』

「………ふっ、ははっ笑」

思いっきり彼女が笑うから
それに釣られて俺も笑ってしまった

2人しかいない空間で笑い声が響く

お互い一頻り笑うと彼女は続けた

『お昼ご飯食べてたの。ごめんなさい。
衝撃だったよね、主に私の顔が。』

「いえ、ノックせず入ってすみませんでした笑
…もしかして声優さんですか？」

『ふふ笑、そうだよ。成瀬です。』

「江口拓也です。」

すると彼女は手を拭いて
立ち上がってこちらに近付いてくる

遠目でも美女だと認識出来ていたけれど
距離が縮まればその異端さに気付く

近くで見た時の破壊力が凄まじい

少しキツめのメイクが似合っていて
ふんわりと流している前髪が揺れる

黒髪がより一層肌の白さを際立たせ
顔だけじゃなく仕草や女性らしいスタイルも
全身から色気が溢れ出ていて目を奪われる

圧倒的存在感にただ見つめるしか出来ない

そして気の強そうな見た目とは裏腹に
すごく可愛らしく笑ってみせるから

目が合った瞬間

顔が赤くなるのがわかった

『はい、握手。』

「え、」

『変な出会い方だったけど、それも縁だと思うから。
現場で会ったらよろしくお願いします。』

「っはい！よろしくお願いします！」

でもそうやって握手した日から
しばらく彼女に会うことは無かった

彼女と同じ事務所だからと経歴を調べても
名字とデビュー年と出演作品しか載っていない

ボイスサンプルも無く
年齢も出身地も顔写真すら無かった

あの時間違えて入った部屋はあれ以来鍵がかかっていて
マネージャーに聞いても入らないようにと言われるだけ

連絡先を交換しなかった心残りを抱えたまま
彼女と2回目の遭遇はそれから1年後

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