曖昧な彼女 (ページ19)

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色々思うことはあって気持ちは複雑でも
やっぱりそんな簡単に消えるものでもないらしい

無意識にこの部屋に足が向いてしまったことが証拠だ

「…」

彼女は何も知らないんだから普通にすれば良い
俺が勝手に苦しくなってるだけなんだから

なんて頭でわかってはいても
扉を開けることへの躊躇いが生じて

ドアの前で立ち尽くす

誰か来る前に

入るか

帰るか

『__！』

「え、」

部屋の中から微かに聞こえた
成瀬さんの小さな悲鳴

弾かれた様にドアをノックする

「っ成瀬さん？」

『江口くん！？早く…っ！』

縋るような声に急いでドアを開ける

「……え、どういう状況？笑」

成瀬さんは鞄を抱き締めながら
ソファの上でしゃがんでる…

もちろん成瀬さん以外誰もいない

『早くこっちに来て！』

「何、どうし」

『蜘蛛！』

「は？」

『蜘蛛がいたの！』

「…は？」

『蜘蛛がどこかにいるの！どうにかして！』

「蜘蛛…」

『そう！スパイダー！早く見つけて外に出して！』

「突然の英語やめろ笑」

泣きそうな顔して何言ってんの

てか蜘蛛って…
もっとやばいことでもあったのかと思ったわ

「いないけど…」

『絶対いる！呑気に歩いてるの見たもん！』

「えぇ…？」

呑気に歩いてるって何

別に蜘蛛が好きなわけじゃないけど
可哀想だなおい

「ラグの上もいないし……あ！」

『いた！？』

「いた。なんだ、めっちゃ小さいよ。」

『やだっ！来ないで！』

「そんなに？笑」

『ごめん！でも虫は無理なの！』

「わかったわかった、外に出すよ。」

俺が手で捕まえた蜘蛛を外に逃すと
ずっと監視するように見てくる

どんだけ苦手なんだよ笑

手の平を見せながら成瀬さんのいるソファに戻る

『本当にありがとうっ！』

「いやいや良いけどさ。蜘蛛に同情しそうになるわ笑」

蜘蛛が外に出たことで
安心してソファから足を下ろしている

隣に座ると手を引っ張られた

「っなに、」

『一応。』

ウェットティッシュで俺の手をゴシゴシと拭かれる

初めて手が触れたことに動揺してるのは俺だけで

なんとなく拍子抜けした

蜘蛛のせいで悩むのも面倒になってきたし

たとえ成瀬さんに彼氏がいても
今はまだこのままで良いかもしれない

「拭きすぎじゃない？痛いんだけど笑」

『あっごめん！』

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