At that time 12-6* ページ45
『犯罪係数79 執行対象ではありません トリガーをロックします』
犯罪を犯しているであろう男の犯罪係数が規定値以内だった。
ありえない言葉に驚いていると、ゆきが朱に助けを求めた。
「朱…っ」
「…待っててゆき！今助けるから！」
「…ああ、君の顔は知っている。公安局の常守朱監視官…だね」
「あなたがゆきを巻き込んだのね…よくもっ…」
白い髪の美しい男は、まるで物語のように言葉を紡ぐ。
犯罪者とは思えない態度だった。
「僕は槙島聖護」
「な…っ…槙島！？」
「…成程そこで驚くのか…さすが公安局だ。尻尾ぐらいは掴まれていたというわけか」
「…あなたには複数の犯罪について重大な嫌疑がかかっています。市民憲章に基づいて同行を要請します」
公安局のIDをホログラムで見せ、ドミネーターをかかげても槙島は余裕だった。
「話があるならこの場で済まそう。お互い多忙な身の上だろう？」
「逃げられると思ってるの？」
今まで相反してきた犯罪者とは違う槙島聖護の異質さ。
この世の常識が通用しない存在なのだと認識する。人を殺しそうな雰囲気に見えない。
「君が言う複数の犯罪とはどれのことだろう。御堂将剛？それとも王陵璃華子？」
「やっぱり……」
「僕はね、人は自らの意思に基づいて行動したときのみ価値を持つと思っている。だから様々な人間に秘めたる意思を問い質し、その行いを観察してきた」
「いい気にならないで。あなたはただの犯罪者よ！」
朱の怒りを槙島は微笑んで受け流すだけだった。
槙島が返事をする前に、もう1つの足音が聞こえてくる。目を向けると朱にとって、ありえない人物がいた。
槙島と同じ白い髪。人形のような整いすぎた美貌を持った女性。
「そもそもこの社会で、何をもって犯罪と定義するの？朱が手にしたその銃、ドミネーターを操るシビュラシステムが決めるの？」
「…A…！？どうしてここに…」
朱の教育課程時代の同級生・Aがいた。
思わずドミネーターを両手で構え、彼女の犯罪係数を計測する。槙島とAは驚くほど似ていた。
『犯罪係数アンダー50 執行対象ではありません トリガーをロックします』
「……えっ」
どちらもドミネーターが作動しなかった。
犯罪係数を測れない人間がいるなんて聞いたことがない。そんな朱を槙島とAは面白そうに眺めていた。
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作者名：Mermaid | 作成日時：2017年7月28日 21時
