At that time9-5* ページ21
部屋の扉に近づくと中から声がした。
「……あーらワンコちゃんお久しぶり」
「随分と絵が増えた。さすがに背中は無理だろ」
「こう見えても体は柔らかいのよ私。鏡さえあれば背中もいけるわ」
扉にある窓から全身に絵を描いた男が見えた。
薄暗い室内でもわかるが、少々不気味な雰囲気を放っている。
朱もその雰囲気に怯みかけた。
「ニュース見てるか？」
「…芸術に理解のない世界なんて興味は無いのよ」
「この死体に類似性のある作品を探している。絵画・彫刻・映像・漫画…文芸作品でも構わない」
「あら、良い出来じゃない。王陵牢一のアートそのまんま」
素直に感嘆を述べているが、狡噛と朱には王陵牢一の名を知らない。
その二人の様子を見て男は信じられないというため息を漏らす。
彼にとってはかなり有名なのだろうか
「王陵牢一の名前も残らないんて…っ…ある時期一世を
試しに検閲で調べたけれど何も情報は出て来なかった。
男曰く、昔は有害指定を食らっても誰かがネットで保護していたらしい。
「あの、王陵牢一について詳しく教えてもらえませんか？」
「まぁ…っ嬉しいわぁ。ココに入られてから誰も私の話なんて聞いてくれなかったのよぉ」
朱の尋ね方が良かったのか嬉しそうに話しだす。
王陵牢一は、グロテスクの系譜を正しく踏まえたファンタジー・アートの旗手。
少女の肉体をモチーフに残虐で生々しい悪夢を描き出す天才だった。
でも彼は生真面目なモラリスト。
作品のイメージと作者の実態が違うのはよくある話だが、牢一にそこに確たる理念があった。
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作者名：Mermaid | 作成日時：2017年7月28日 21時
