At that time11-8* ページ38
泉宮寺に追われて、しばらく経った。
ゆきはもう体力の限界に来ていた。
「もう駄目…走れない…もう嫌、無理っ…ねぇ聞いてる!?」
「悪いが、考え事の最中だ」
「いいから何か喋って!あんたって…黙ってるとなんか怖いんだもんっ」
体力も精神もゆきはもう限界だった。
狡噛みたいに冷静になれるほど強くない。それが当たり前だ。
ゆきの言葉を受け流しながら、狡噛はこの意味を考えていた。
「…考えていた。あんたを餌にして常守が釣られ…代わりに俺が探しに行くことまで織り込み済みで、連中はこの狩りをセッティングした」
「…あいつらが遊びたいのはあんたなんでしょ?あたしはただの、クソっ…巻き添え食らってるだけなんでしょ!?」
「その通りだ。あんたについては最新の偽メールを仕掛けた時点で役目は終わっていたはずだ」
ゆきがそれだけの役目なら、偽メールを送るだけで十分だった。
確認させないように携帯を遠隔操作でもすればいい。
なのにどうして、犯人達はゆきを地下鉄に乗せたのだろう。
「それってさ…あんたが簡単に逃げられない様にするためじゃない?」
狡噛一人だけだったら簡単に逃げられる。
簡単に逃げられないのは、ゆきがいるからだ。言えはしないが足手まといというやつだ。
ゆきは自虐的に呟く。
「…もういいわよ…好きにしなさいよ…」
「…この狐狩り…ただのワンサイドゲームじゃない。奴らは俺にも勝ち目があるとちらつかせてるんだ。つまり、俺は試されてる。途中であんたを見捨てるか否…きっとそいつも勝敗を握る鍵のひとつなんだ…」
じっと、ゆきを見た瞬間ある考えが浮かんだ。
本人には失礼だが確かめる価値はある。
「おい、服を脱げ」
「はぁ!?なっ、何考えてんのよこんなとこで!」
「いいからその寝間着を寄越せ。確かめたいことがある」
「あんた正気!?頭でもイカレたの?」
「生き残りたければ言う通りにしろ」
しばらく渋っていたゆきだが、狡噛の言葉で覚悟を決める。
ジャケットを脱ぎ捨て、潔く寝間着を脱いだ。
「…こんなド変態が公安の刑事だなんて…っ」
脱いだ寝間着をゆきは狡噛に投げつけた。
寝間着には何もない。
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作者名:Mermaid | 作成日時:2017年7月28日 21時