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「じゃ本題に戻るね。…ゴーストシンガーはアヤなの？」
「うん…。」
「ずっと前から？」
「デビュー時から。」
「そっか。」
何かを考えるように宙を見つめるジョングク先輩。
再び沈黙になるかと思ったけど。
「この作業室はアヤの？」
「はい。匿名で歌声を配信したり、…曲を作ったり。」
「作れるの？」
「そんなすごいものでは無いです。」
聴いてて自分でもつまらないなって思う。
大して響かないし、在り来り。
「聴かせて。」
「え…」
「アヤの曲をアヤの歌声で聴かせて。」
「でも…」
「俺がなんでミユンが歌ってないって知って許せなかったか分かる？」
「えっと…」
歌うのを渋る私に、先輩はそんなことを聞いてきた。
本当に親友だったからなのかなって思っていたけど。
本当の理由は予想のはるか上を行っていた。
「ミユンの歌声が、大好きだったから。」
どこか切なく瞳を揺らすジョングク先輩。
その眼差しが私に向けられ、ドキッとしてしまう。
「ミユンってなんでもすごいじゃん。めちゃくちゃ美人だし、性格も…ちょっときついけど、根は優しいし。ダンスもラップも完璧。非の打ち所なんて全くない。
練習生の時、俺はあいつをライバルだと思ってた。先にデビューした時、最低だけどちょっと優越感まで感じたし。」
「そうなんですか…。」
「でも、デビュー曲。あの時の彼女の歌声を聴いて…絶望した。」
「え…」
「自分に、ね。」
益々言ってる意味が分からなかった。
「あいつの歌声には完敗だって思った。」
「…、」
何となく、許せなかった理由が分かってしまった。
「どう足掻いても、こんなに人を惹き付ける歌声を俺には出せないと思った。
ずっと互角だと思ってた。
完璧なのは俺も一緒だろって。
でも全然違った。
彼女の歌声の足元にも及んでないって思った。」
先輩は、悔しいけど好きで堪らない、でも羨ましい、そんな複雑な瞳の色をしていた。
「だから、どうしても許せなかった。
ミユンがファンを裏切ってることにも。
なんで、なんであの歌声はミユンの声じゃないんだって。
俺の心を奪った歌声が、ずっとずっと遠くにあるような気がした。」
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作者名：あやテテ
| 作成日時：2021年3月19日 17時
