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「あ、俺もう行かなくちゃ。ばいばい、アヤちゃん。また歌おうね。」
「はい。」
嵐のような人だな、といつも思う。
テヒョン先輩と話すようになったのは奇跡に近いくらいの偶然だった。
この事務所のほとんどの人が私の存在を知らない、というか本当は誰にも知られたらいけない。
でも、テヒョン先輩は持ち前の人懐っこさと少しの強引さで、私の領域にずかずかと入ってきた。
最初はそれが嫌だったけど、でも気付けば私の中で信用できる人になっていた。
出会ったころからテヒョン先輩のグループは人気を着実に上げていたけど、今では世界中を回るトップアイドル。
そんな彼が平凡以下な私になぜ構うのか、考えても分からないけど。
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ﾏﾈ「今日は先輩グループとのコラボだからしっかりな。」
ｼﾞｭﾘ「はーい！」
ﾏﾈ「アヤは今日来なくて大丈夫。歌うことはないからな。」
「了解しました。」
ｼﾞﾝｳ「ごめんね、アヤ。」
「何がです？」
ｼﾞﾝｳ「えっと、」
ﾐﾕﾝ「行くわよ。」
「頑張ってくださいね。」
朝、グループのメンバーと同じ集合時間に事務所に行ったけど、今日は一日を通して私は必要ないことが分かったから、そのまま事務所に残る。
何をするかなんて考えるまでもないから私が使わせてもらっているボーカル室に向かった。
何不自由ない生活。きっと誰よりも楽をしているんだと思う。
「歌おう。」
綺麗に着飾ってたくさんダンスの練習をして、ファンの前で笑顔を振りまき、愛を伝える。私にはそんな必要は全くない。
ただ歌う。舞台裏で、誰にも気付かれないように。
ミユンさんの代わりに。
ミユンさん、ヨンスさん、ジュリさん、ジンウさんのBigHit所属のガールズグループ『Moon』のメインボーカルのゴーストシンガー。
それが私。
誰にも気付かれる必要はない。
ただ一人、あの人にさえ届けば、それで。
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作者名：あやテテ
| 作成日時：2021年3月19日 17時
