68 ＊ ページ18
＊
「ジュノさんっ…、」
ｼﾞｭﾉ「何？」
「っ…」
まるで、誰のことも見えていないかのような真っ黒な瞳をアヤに向けるジュノ。
恐怖で言葉を失うアヤに、ジュノは言う。
ｼﾞｭﾉ「…明日から映画の撮影でソウルを離れる。」
「え…？」
ｼﾞｭﾉ「戻ってくるのは多分、再来週の頭くらいだと思う。」
「…そうですか。」
こういう時の反応はどうしたら良いのか。
ホッとしたような…でも…。
「…頑張ってください。」
ｼﾞｭﾉ「アヤ、」
静かに彼はアヤの名前を呼ぶ。
久しぶりに聞いた優しい声色に昔を思い出した。
もう彼の目は真っ黒ではなくて、きちんとアヤを映していた。
昔は…こんな風に穏やかなジュノが当たり前だったのだ。
ｼﾞｭﾉ「…約束、守れる？」
「っ…約束って、」
ジュノ切なさを帯びたその瞳が揺れ、胸を締め付けられる。
──俺、1人なんだよ。
彼の瞳の奥にデビュー前のジュノが写った。
ｼﾞｭﾉ「アヤは俺から離れていかないよな…？」
「…、」
ｼﾞｭﾉ「アヤ…」
まるで救いを求めるように。
自分に手を伸ばしてきたジュノを拒絶することなんて、できるはずがなかった。
「…うん。
離れないよ。」
アヤがあのときチャニョルに手を伸ばしたように。
ジュノの心はアヤだけを求めていた。
皮肉にも、今の目の前の男の気持ちが手に取るように分かる。
そう、結局のところ
アヤとジュノはとても似ているのだろう。
ｼﾞｭﾉ「アヤ…」
手に負えないくらい凶暴になり、人を恐怖に突き落としたと思えば、捨てられた子犬のように切なく瞳を揺らす。
コロコロと変わるジュノから離れられないのもまた、アヤ自身。
「…約束、守るから…
大丈夫、…大丈夫だよ。」
チャニョルに貰った温かさをジュノに渡した。
チャニョルとジュノ、どちらを選ぶかなんて問題は既に成り立っていない。
だってジュノはとても弱い人だから。
自分が彼を見捨てたら、きっとジュノは消えてしまう。
アヤはそう思った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あやテテ
| 作成日時：2021年5月29日 6時
