人形師【look back on the past】

二つ目の故郷 ページ10

玉子のお粥が食べたい。
塩気が少し効いてて、玉子がほどよくトロッと溶けてて、暖かいお粥が。

あの人が出してくれたお粥はそうだった。

久しぶりにまともなものを食べた。
口が、服が、汚れるのも構わずに、スプーンを握ってがっついた。

胃袋に満たされるそれは、じわりと体に染み込んでいく。

彼女はそんな俺を黙って見ていた。
優しげな笑みを浮かべて、皿が空になれば、お代わりをよそってくれた。

完食した後は布団をかけられて、眠るように言われた。

なんでここまでしてくれたのか問うと

｢助け合うのは当たり前だろう？｣


スラムじゃ騙しあうのが普通だった。

盗んで、殺して、
そんなのが日常茶飯事だった。

目を閉じて、力を抜けば体がベッドに沈んだ。

後でお礼を言わなくちゃ。



｢おや、もう大丈夫なのかい？｣

心配そうに問いかける彼女に笑って頷けば、彼女も安心した笑みを浮かべた。

これ以上迷惑をかけるわけにいかないと思い、俺は出て行くと告げた。

しかし彼女は俺を止めて、ここで暮らすように言った。

そうしたいのは山々だ。
でも、彼女の負担になる。

助けてくれた人にそこまであやかるわけにはいかない。

｢なら、うちで手伝いをしておくれよ。
それなら、良いだろう？｣

彼女はそう言ってまた、俺の頭を撫でた。

本当に泣いてばかりだ。

人の優しさが、これほどまでに嬉しいなんて。

そんな俺を彼女は抱き締めて、背中を擦ってくれた。

この日から、
この村は俺の二つ目の故郷になった。

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