人形師【look back on the past】

商売 ページ12

良い人たち、だった。

けれども俺は、その村から逃げなければいけなかった。



｢よぉ！エル坊。元気にやってるか！｣

俺にそう親しげに話しかけたのは商人のおっさん。この村と宗教都市を生業に商売している人だった。

俺は、それに軽く頷いて完成した人形を見せた。

｢ほぉ〜やっぱり質がいいな！
都市でもお前さんの人形人気なんだぜ｣

質が良いのは彼がくれる素材の質が良いからなのだが、彼は『そんなことねぇよ』といつも褒めてくれた。

俺は、女性＿＿＿＿女将さんに拾われてから、この村で暮らしていた。

女将さんは宿を経営していた。
夫は数年前に他界して、息子は村を離れて暮らしていると言う。

だから俺は女将さんの手伝いをする傍ら、母から教わった裁縫でちょっとした小物を作って売っていた。

ある日、女将さんに俺は父が人形師で、裁縫は母から教わった事を話した。

すると、それを知った女将さんが商人のおっさんから人形の素材を寄越してくれたのだ。

驚き、こんなの受け取れないと否定したが、彼女らは無理矢理俺に手渡した。

...久しぶりに作ってみようかな。

そう思えば、手は無意識に道具と素材を受けとっていた。

その日から、俺は夜遅くまで人形作りに励んでいた。

始めて、本格的に作った人形は少しだけ不格好だった。

髪はパサついて、腕は体に対して少し長かった。

それでも、女将さんは褒めてくれた。

完成の知らせを聞いた商人のおっさんが、『その人形、売ってこようか？』と提案したが、それに値するほどの物ではないと思った。

だから、もっと良いものができてからにする。と、断った。

彼は少し残念そうだったが...
それでも俺の頼みを聞いてくれた。

この人形は、村の村長が貰ってくれた。

年老いた彼は高値で買おうとしてくれたが、申し訳ないのでタダであげた。

その頃の俺は人形が売れることよりも、受け取ってくれる事の方が嬉しかったのだ。

それから素材を受け取っては、宿を手伝いつつ人形を作る。という日常が続いた。

５体ほど完成したところで、俺は商人のおっさんに人形を売ることを頼んだ。

おっさんは律儀にも売り上げを全て俺にくれた。

それはフェアじゃないと思い、俺は受け取らなかったが、おっさんもそこは譲らなかった。

素材を毎回くれるのに、金まで貰っては...

だから、売り上げの半分だけ貰うことにした。

しつこくそう提案すれば、おっさんは折れてくれた。

再会→←人形師イメージ画像

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す