第拾陸話 ページ20
朝となり、鱗滝さんと共に炭治郎を見送った。
「鱗滝さん、A、行ってきます。錆兎と真菰によろしく。」
そう言って走っていく炭治郎の背に、私はめいいっぱい手を振った。
「炭治郎。なぜお前が…死んだあの子たちの名を知っている。」
そんな鱗滝さんの呟きを、あえて聞かぬふりをして私は家の中に入る。
炭治郎は錆兎達が死んでいることは知らない。
私もここに初めて来た時、岩を斬れずにいた所を助けられた。
彼らが生きていないのは一目で分かったけど、炭治郎はそうではなかったのだろう。
普通なら、死んだ人間の姿など見えやしないのだから。
それから暗くなるまで鍛錬をし、そのままの足で山の中に足を踏み入れた。
『二人とも。炭治郎、最終選別に行ったよ。』
「ああ。知っている。」
「錆兎。炭治郎、勝てるかな?」
「わからない。努力はどれだけしても足りないんだよ。知ってるだろう、それはお前も。」
……錆兎も真菰も、本当は生きて帰ってきたかったのに、それは叶わなかった。
それは全て、あの鬼のせい。
私が、私が仇を討つつもりだったのに。
「悔やむな、A。お前は女だが、剣士なら悔しかろうが前を向いて強く生きろ。」
『でも……。』
「いいんだよ、A。Aが無事に帰って来てくれて、鱗滝さんも私達も嬉しいんだから。」
そう言って真菰は笑った。
それに何故か胸を締め付けられて、私が言葉を発しようとした時、錆兎が声を上げた。
「落ち着け炭治郎。呼吸が乱れている。もういいんだ、俺たちのことは!!」
どうやら今、炭治郎があの鬼と対峙しているらしい。
ああどうか、無事でいて。お願いだから。
私の最終選別の時、錆兎と真菰から話を聞いていた私は、二人の仇を討つつもりでいた。
これ以上鱗滝さんの元から犠牲は出させないと、勇んで藤襲山に入ったはいいものの、その鬼と会うことはなかったのだ。
普通ならここで、運が良かったと思うべきなんだろうが、二人の仇を討つことが出来ず、私はその事を悔やんだ。
もしかしたら、亡き家族が私を護ってくれたのかもしれない。
それでも、素直に喜べはしなかった。
「やっぱり、炭治郎も負けるのかな?アイツの頸、硬いんだよね…。」
「負けるかもしれないし、勝つかもしれない。ただそこには一つの事実があるのみ。
炭治郎は誰よりも硬く、大きな岩を斬った男だということ。」
だから信じて待つしかない。
炭治郎が、あの鬼を倒すことを。
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masa - コスプレイヤーとして演じる程,隠がお気に入りです!闘える隠もいるはずと信じているので,この作品が大好きです!正に本編そのもの!東雲ちゃんも大好きです! (2021年1月7日 1時) (レス) id: 8a22c9168c (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 無限列車編、楽しみです!煉獄さんンンンン!!!!!!!! (2021年1月6日 0時) (レス) id: 5eabcf99e7 (このIDを非表示/違反報告)
R_yomoya(プロフ) - めっちゃさいっこうです!無限列車編はどうなるのか…! 煉獄さん生存ifであることを祈っています…! (2021年1月5日 14時) (レス) id: 241a1cc2c3 (このIDを非表示/違反報告)
天深 - とても好きな作品でした(;_;) (2020年1月24日 16時) (レス) id: 456e47df85 (このIDを非表示/違反報告)
すンず - めっちゃ最高!!頑張って下さい!応援しています! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 6823c0d55a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍夜 | 作成日時:2019年10月6日 13時