無個性だろうが、なんだろうが ページ29
轟side
誰だって、子供には夢を見せたい。
だから、嘘でもその言葉を口に出したんだと俺は思った。
だけど、次に凍華から出た言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
『無個性でも、人一倍に努力を続ければ、なれる可能性はあると思う。
無個性だろうがなんだろうが、助けたい、守りたいって気持ちがあって、その気持ちだけで体が動くかでヒーローになれるかは決まる。私はそう思ってるの。
"考えるよりも先に体が動いた"
多分、トップヒーローは口を揃えてそう言う。だから、誰でもヒーローになれる可能性は秘めている。
君に個性が無くても、ヒーローになりたいという気持ちがあるなら、諦めずに追いかけてみて。
君が大人になる頃には、時代も生きやすい方に変わってくるかもしれないしね。
変わらなくても、努力を続けて戦い方も勉強して、無個性でも戦える術さえ身につければ、きっと大丈夫だよ。』
そう言って優しく笑う。
ちゃんとした、アドバイスだった。嘘で言っているなら、"なれる"とだけ言っておけばいい。
俺は、無個性にヒーローは無理だと思った。
それでも目の前にいるこいつは、その考えをぶち壊していくかのように、数々の言葉をかけた。
本当にこいつは、俺の考えの斜め上を行く。
凍華から言葉を受けた女の子は、大粒の涙を流していた。それを聞く母親も、同じように泣いている。
凍華は指で優しくその涙を拭って、頬を包みまた微笑んだ。
『大丈夫。最高のヒーローに向けて、頑張ってね。』
｢うん…！ありがとう、お姉ちゃん！！お姉ちゃん、お名前は？｣
『私はフリーズマリンって言うの。私がプロになったら、どうぞご贔屓に。』
｢うん！私も頑張るから、フリーズマリンも頑張ってね！｣
『ありがとう。』
優しく笑って、また頭を撫でる。
その後、手を振りながらその親子を見送った。
そしてすぐに、保須市へと移動する。
俺はその道中、凍華に疑問をぶつけた。
｢なんであんな堂々となれるって言ったんだ。｣
『んー、私の知り合いにも無個性の子がいたんだよね。私にとっても凄いかっこいいヒーローでさ。その子は無茶してばっかりだったけど、助けるのに躊躇いなんてなかった。
それを近くで見てたからね。彼女も、あの子のようになれるよ。絶対に。』
そう力強く言った凍華の目は、どこか寂しそうな色をしていた。
どうして過去形で話したのかは、何故か聞いてはいけない気がした。凍華の言う、"あの子"がどうなったのかも。
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作者名：藍夜 | 作成日時：2019年1月19日 23時
