家族 ページ19
私が何も言えないでいたら、轟君がまた歩き出した。
『……ありがとう、轟君。そう言ってくれるだけで、私は救われた気がする。』
｢そうか。｣
『うん。そうだ、轟君。轟君のお母さんはどんな人？』
そう聞くと、轟君は一瞬黙ったがすぐに答えをくれた。
｢優しくて、綺麗な人だ。｣
『ふふっ、だろうねぇ。こんなに優しくて、かっこいい人のお母さんだものね。』
｢…お前の両親は？｣
そう聞いてきた轟君の耳は、少し赤かった。
どこで照れる要素があったよ轟君。
『私の母さんと父さんは、優しくてかっこよくて、とても凄いヒーローだった。自慢の両親だったよ。
死んでしまったのは悲しかったけど、自分の危険も顧みないで、人を助けに行く。そんな姿が、物凄くかっこよかった。』
｢……そういう所は、お前も似てるのかもな。｣
そうね。きっと、そうだね。
だって私も、母さん達のように死んだのだから。
そんなことを話しているうちに、病院に着いた。
轟君が受付を済ませ、一緒に病室の前に行く。
手をかけようとした轟君の手が、少しだけ震えていて、それを静かに包み込む。
『大丈夫。大丈夫だよ轟君。君と君のお母さんは、家族じゃない。』
そう言って微笑めば、轟君も柔らかい表情になりドアを開けた。
轟君の後につづき中に入れば、窓の外を眺める女性がいた。あれが、轟君のお母さんか。
｢お母さん。｣
轟君に呼ばれ振り返った彼女は、轟君に聞いていた通りとても綺麗だった。
それから轟君はお母さんと話し込んでいる。
二人の様子は良好。良かったね、轟君。
こうして見ていると、やっぱり家族っていいなって思ってしまう。もう、私に家族なんていないのに。
あ、スフィンクスがいるわね。一人じゃないわ。
ここは私が口を出していい空間じゃない。
そう思って、私は静かに壁に寄りかかりそれを眺める。
幸せそうで、良かった。
すると、いきなり轟君が私を呼んだ。話は終わったのだろうか。
｢こいつは上条凍華。体育祭の時、助けてもらったんだ。｣
｢焦凍を助けてくれて、ありがとう。私もそれで救われたわ。
これからも、焦凍をよろしくね。｣
『…はい。』
その後、私達は病院をあとにした。
轟君のお母さんも、轟君も、やっぱり優しい人だ。
｢今日はありがとな、上条。｣
『ううん。それじゃ、またね。』
｢ああ。｣
手を振りながら、轟君と別れた。
母さん、父さん。私はしっかり前を向いて生きれてますか？
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作者名：藍夜 | 作成日時：2019年1月19日 23時
