あなたのいない、この世界で【煉獄杏寿郎】

散策 ページ15

◇◇









そして、不死川さんの御屋敷に住み始めて約五ヶ月。



汗ばむ陽気が連日続く中、キリの良いところまで勉強を終えた私は、天井に向かって軽く腕を伸ばし、窓の外を眺める。


蝉が忙しなく鳴く音と微かな風に揺られる風鈴の音を耳で感じながら、私は引かれるように外へ出る。









「不死川さん」


「…なんだァ煉獄」



不死川さんの部屋の空いた襖から、少し顔を覗かせながら声をかければ、桜寿郎は小さな手で筆を持ち、不死川さんと共に字の勉強をしていた。







「みんなでお散歩に行きませんか？」



勉強の休憩がてら、気分転換に外へ出たいと誘ってみると、不死川さんは少し考える素振りを見せて、何も言わずに桜寿郎を抱き上げる。



そんな不死川さんの様子を黙って伺っていれば、不死川さんは既に行く気満々なのか、桜寿郎に麦わら帽子を被せて玄関へ向かい始める。




そんな不死川さんに、私はクスクスと笑いを零し、ゆっくり二人のあとを追った。









◇









不死川さんの御屋敷での生活は、慣れるのに時間がかかったものの、最近では居心地の良い場所へと変化し、不死川さんとも随分仲良くなれたと思う。


何より、今年で二十七だという不死川さんの様態がいつ急変するか分からないと、最初の頃は心配で仕方がなかったのだが、不死川さんは痣者の死亡推定年齢をとう過ぎているというのに、とても元気そうに毎日過ごしていた。






この人のことだから、もしかしたら痣にも打ち勝ってしまったんじゃないか。









「さねみおにいちゃん！もっとはやいの！」


「おう。ちゃんと捕まってろよォ」






そんな夢のような、自らの願望のようなことを考えていると、突然、桜寿郎を抱えていた不死川さんが走り出す。









「へ、」




驚きでそんな間の抜けた声が漏れてすぐ、私は反射的に不死川さんを呼び止める。



私の発狂に近いような声に驚いたのか、数歩程離れた場所で足を止めた不死川さんは、私の所まで戻ってきてくれる。


そんな不死川さんに、体のこともあるので無理なさらないでと、焦って口を開こうとすると、不死川さんは桜寿郎を抱えていない方の手を、私に向かって差し出した。









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