長期合宿 ページ29
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「木兎、私が今何してるかわかる？」
「…飯食ってる」
少しお説教をするような口調で言えば、木兎は体を縮めこませて返事する。
「木兎がバレーにかける情熱と同じくらい、
私は食べることに情熱を注いでるの」
木兎だって、バレー邪魔された嫌でしょ？
ボール取られるの嫌でしょ？
そう畳み掛けるように言えば、しょんぼりする木兎越しに、いくらなんでも食い意地張りすぎだろ…とでもいいたげな赤葦からの視線が突き刺さる。
「…そんなに肉欲しいの？」
「え、くれんの？！」
この場を収めるためにそう言うと、あのAが…！？と驚いた顔をする木兎。
あげるわけないでしょと呆れながら、木兎に向かって体を向け直し、これは大変な問題だ…と渋い顔を作る。
「木兎は肉が欲しい。私は絶対あげたくない。
…これじゃ、私と木兎で喧嘩になっちゃう」
「えっAと喧嘩なんてヤダ！！
どうすればいいんだ！！」
私がそうふざけて言えば、木兎は本気でヤダと言って焦りだす。
そのあまりにも純粋な反応に、私は先程作った渋い顔が崩れて少し笑ってしまった。
「そんなの簡単！」
そう言って勢いよく立ち上がれば、木兎の隣で虎たちと話していた赤葦とバチりと目が合う。
「先輩命令だ！！赤葦ぃ、肉よこせ！！」
盗賊のようにビシッとキメ顔をして言うと、木兎はワナワナと焦ったような顔をして、私と赤葦の顔を交互に見ている。
「…」
じとっと下から見上げてくる赤葦に、学年も目線も上なはずなのに、私は冷や汗が溢れ出す。
「…」
「………あ、あは。」
とうとう眼圧に耐えられなくなった私は、静かに赤葦から目を逸らし、というのは冗談で。と苦し紛れに話をすり替える。
「ちょいちょい」
「ん？」
耳打ちするために木兎に近づけば、その差を埋めるように体を少し傾けてくれる。
「あのおばさん達にね…」
「うんうん！」
私がコソコソと内容を伝えれば、分かった！！と大きな声で返事して、木兎は早速食堂のおばさんたちの方へ向かった。
「…またあの人になんか変なこと吹き込みましたね」
「大丈夫大丈夫！
おかず欲しいなら交渉しなって言っただけだけだから！」
自分で言うのもなんだが、あまりにもクズすぎる作戦のため誤魔化せば、案の定疑ってくる赤葦。
その視線から逃れるようにヘラヘラ笑うと、赤葦は面倒くさそうに食堂の方を見ていた。
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作者名：西川あや x他1人 | 作成日時：2020年8月5日 21時
