小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ9)

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なんか、申し訳ないな…

譲ってもらうどころかまさか隣同士だなんて。

先客『ぁ…すみません…』

『すみません…』

さっきからココアを飲む度に肘が当たって、お互いにすみません、すみませんって謝り続けてる。

隣に座る、黒縁メガネにパーカーを着た優しそうな青年。

同い年…かな？大学生には見えないし…。

横を見つめているとまた目が合ってしまって慌てて視線を下に向けた。

飲んでも飲んでもなかなか減らないココアを見つめながら、頭の中ではママの事がぐるぐるとまわる。

本当にどうすればいいんだろう…

とりあえずバイトはしてるから今すぐ生活費が…とかはならないだろうけど、高校生の週3バイトじゃ限界がある。

ママは“大丈夫”って言ってたけどそんなの＿＿

考えたらまた目に溜まっていく涙。

もう辛い。こんなにも身近な人が不幸になるなんて考えたこと無かった。

ママはいつか死んでしまうの？？

＿＿そんなことになったら、俺どうしたら…。

助けて…

『あの…大丈夫ですか…？』

隣にいた先客が肩をぽんぽん、と叩いてきた。

心配そうな目でこちらを見つめてくる。

やばい、泣いてるのバレてるかも。

『すみません…大丈夫です。……あ、ごめんなさい、隣。ありがとうございました。俺は失礼します。』

知らない人に自分が泣いたのを見られてしまった恥ずかしさと、隣を陣取ってしまった申し訳なさで、紙コップを捨てるだけの動作がぎこちなくなる。

もう、ここに来ることは無いな。

本来は2、3日で退院する予定だったから荷物は少なくてよかったけど、これからのことを考えると大掛かりな準備が必要になるだろうし。

どこか吹っ切れた思いで、来た道を戻っていく。

『あの！』

さっきの人…？突然、後ろから声が聞こえて俺？と思いながら振り向く。

さっきの青年は指をツンツン合わせながら口を動かして、

先客『えっと…』

先客『お節介かもしれないですけど…、俺多分明日もいるので…!!………なんかあったら来て下さい！』

初対面の人にそう言われても…なんてことが浮かぶ。

そんな向こうにもよく分からない出会いで、俺達は出会った。

すぐにこの関係が終わってしまうとも知らず＿＿＿

＿＿
今年もありがとうございました。
トップページに今年最後の挨拶を追加させていただきました。