小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ6)

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医師『検査をした中で少し気になるものがありまして…、まだしっかりとした検査はできていないので確定ではありませんが…』

そう言いながら、マウスを動かしてパソコンの画面を切り替える。

画面に表示される脳の写真みたいなものは、俺が見てもどこが悪いのかなんてさっぱり分からない。

怖い…なんて言われるんだろ…。

ママが倒れた時よりもうるさい心臓の音が耳の中でドクドクと響く。

医師『脳腫瘍の可能性があります』

『え…？』

言われたのは、思ったよりも軽い口調で、思ったよりも重いことだった。

“のうしゅよう”…？

うそでしょ…、

脳腫瘍って、頭にできるガンのことじゃないよね？

俺がバカだから間違っちゃってるだけだよね？

なんで脳腫瘍なんて、漢字でも書けないようなワード覚えてんだろ…。

何でよりにもよって俺の親が……

医師『まだはっきりそう言えるわけではないので、あくまでも可能性です。後日、脳神経外科で詳しい検査をすることになると思いますが＿＿』

言葉を聞けば聞くほど焦りと怖さが増して心臓が壊れそうなくらい鳴っていく。

これ以上親が病気になった話なんか聞きたくもない。もう早く終わりにしてくれよ…。

弟も、外で寒い思いして待ってんだよ。

本当はもうやめてください、って叫びたい。

そもそも病院の雰囲気苦手だし、怖いし、…逃げたい…。

でも…、怖いけど、向き合わないと…。

『あの…』

校長先生みたいな長ったらしい話を遮るようにして、口を開いた。

医師『なんでしょう？』

『母は…、死にますか…？』

全身の力を振り絞って、震える声で医者の目をじっと見つめた。

医師『今はそれには、はいもいいえも返せません。先程もお話した通り、詳しい検査をしてみないと脳に転移したのか、はたまた脳から転移しているのかも分かりませんので＿＿＿』

目線が下へ落ちるのと同時に、医者の冷たい淡々とした声が聞こえなくなっていく。

どうせなら、死ぬも死なないもはっきり言ってほしかった。

はいもいいえも返せない＿＿

もしかしたら、ママは生きるかもしれないし、

死ぬかもしれない…。

医師『＿＿ということで、今後のことに関しては改めて担当医から話があるかと思います。
それと…もし、検査がで脳腫瘍だとわかった場合、特に“悪性”だった場合、お母様にお伝えするかどうか、よく話し合っておいて下さい』