小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ5)

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『今から検査をしますので、しばらくお待ちください』

真面目そうで黒縁メガネをかけた医者はそう残して目の前の白いドアを閉めた。

運ばれて早々、大きめの部屋に消えていったと思いきや、数分も経たずにまた別の部屋へとママはいなくなった。

自販機もありますのでぜひ、なんて看護師さんには言われたけどこんな状況で病院の中をふらふらさまよえるわけがない。

ましてや、弟を置いて。

『………』

諦めて、近くのソファみたいな椅子に座った。

何分待ってみても、“使用中”のランプは消えるそぶりを見せることなく、煌々としたと明るさを保ったまま。

“関係者以外立ち入り禁止”の文字が目立つ分厚い鉄のドアの中からは時々、機械の音みたいなのが聞こえてくるだけ。

＿＿こういう時って、神様にお祈りするみたいに手を合わせておくんだっけ

何人もの大人達がママの周りを取り囲んでいって、色んな機械に繋げて、そんなに状態が悪いの？と不安が増していくのに、耐えられそうになかった。

＿＿＿ｶﾞﾗｶﾞﾗｶﾞﾗ

突如として、分厚い扉が開いて反射的に立ち上がる。

『あの、母は＿』

中から出てきた人に一目散で足早に駆け寄った。

と同時に、酸素マスクを付けられて目を閉じてベッドに横たわるママがどこかへと連れて行かれたのが横目に見えた。

医師『息子さんですよね？』

声をかけられて、動かそうとした足が止まる。

医師『少しお時間ありますか』

・

・

・

静かに頷いた後、いつも患者さんたちが入るような普通の診察室に連れてこられた。

医師『準備が整いましたので、始めてもよろしいですか？』

『…はい』

笑顔が全くと言っていい程見えない相手の表情に少し寒気がした。

医師『今回、お母様が階段から転落されたということで、検査をさせていただきました。
脳の検査の結果、特に転落での影響は見られませんでしたよ』

『え…？』

医師『転落した原因も、神経系の異常は見られなかったので貧血と考えてよいでしょう』

『はぁ…よかった…』

淡々とした言葉の羅列だったけどその言葉にどれほど安心したことか。

医師『今回の症状だけで見れば、2・３日ほど入院していただければ、すぐに退院できます。ただ…』

ただ…？どういうこと？

医師『検査をした中で少し気になるものがありまして…、まだしっかりとした検査はできていないので確定ではありませんが…』