小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ38)

今日:46 hit、昨日:82 hit、合計:28,255 hit

38 ページ38

紫耀Side

『お前、医学部行けるんじゃないか？』

高校2年の2月、今までほとんど話してこなかった担任の先生に、言われた言葉。

人生の大半の夢を自衛隊かダンスの先生あたりで固めてきた俺にとっては、生きてきて2番目ぐらいの衝撃だった。

響煌の“治しちゃえよ、紫耀が”から始まった学生生活史上一番勉強してたんじゃないかってくらい、ここ２，３か月はずっと勉強してた。

ここはさすがの県内トップクラスの高校ってこともあって、周りの影響ってのも大きかったかも。

薬での治療とか、手術以外のやり方で順調に回復してきているような気もするママの体も、まだ安心して生活できるまでには至ってないし、

そもそも、ママが病気になってから家の所得はギリギリで、医学部どころか、大学…？っていう状態で。

弟のこともあるし。

『いや、でも…家の今の状態なんかじゃとても…』

ここは潔く身を引いて、自衛隊か近場の専門学校でも探しますよ、と言おうとしていた。

でも、

先生『特待、狙えんじゃないのか？電車使うことになるかもだけど、国公立医学部なら安く済むし』

『は…？』

さすがに話の内容がレベル違いすぎて、変な声しか出なかった。

・

・

・

響『いやいやいや！なんで“うん”って言わないんだよ！』

『なんでって…今の状況じゃ普通に考えて無理だろ…』

放課後、いつものルーティーン、ではなく、駅近くのスタバでフラペチーノをたしなみながらいつものように話していた。

響『どこが無理なんだよ！特待狙えんだろ！？』

『ちょ、おま…声デカいって』

いつもより明らかにテンションがおかしい響煌の声はスタバに響き渡るくらいの大声量。

響『俺はお前が羨ましいよ』

『A判定取ってる人がC判定の人によくそんなこと言えますね』

響『普通に担任の先生から特待って…。紫耀の頭の中はどうなってんだか』

そういいつつも、実際、響煌の頭の中のほうがやばいのは確かで。

そろそろ受験生を迎えるということもあって、段々と模試の受験者数も増えていく中、堂々と第１志望から第4志望の医学部全部のA判定をかっさらっていくこの男。

俺は目の前で抹茶フラペチーノを飲んでるやつのほうが羨ましいよ。

『まぁ、とにかく、一応視野に入れながら俺はまったり青春を謳歌するかな。
調子がいいのは今のうちだけ。

医学部なんて、受かるわけないんだし』