小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ31)

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『将来医者になって自分の手で一人でも多くの子を助けるんだ』

いつも響煌はなにかあるたびにそう言っていた。

確かに学校内で“俺は医者になって院長の座を取って病院を支配する！”なんて言ってるバカはいるけど、響煌のはどこか説得力があった。

普通に考えてみても、響煌は学科のなかで一番偏差値の高いところにいるし、直接聞いたことはないけど、相当頭がいいっていういわゆる、

なんでもかんでもトップクラスにできてしかも優しくて顔がいい！系の高校生

言い方悪いけど、言葉だけ聞いてみれば、奇麗事を並べただけに過ぎないかもしれない。

だけど、響煌の言葉にはどことなく説得力があった。

その点、俺は後先考えずに行動していくタイプだから、いつになっても未来の自分みたいのがわからないわけで。

他愛のない会話を続けていくうちに、いつもの駅にあっという間に着いてしまった。

響煌とは家の方向が真逆だから、いつもここでお別れ。

はぁ、家帰りたくないな…。

『響煌はいいよなー、やりたいこと決まってて』

ついに、別に言おうとしてもいなかったことを呟いてしまった。

響『まぁ、俺はお子様のころからずっと変わってないってだけだから』

『だとしても羨ましいよ？俺にとっては。このままの調子で進んでいったらニートまっしぐらだもん(笑)』

響『あれ、自衛隊は？どこ行っちゃったの？』

『自衛隊入隊したいです、なんてうちの高校で言ったら、真っ先に潰されるよ』

皮肉交じりに言うと、響煌は何とも言えないような顔をした。

この時期の名古屋ではもう、吐いた息も白くなるみたいだ。

響『あ、ごめん、もう行かなきゃ』

電光掲示板と時計を交互に見ながらそう言った。

『気をつけて帰れよ』

響『おう、そっちもな。じゃ、また来週』

いつものように改札を通り抜けて重そうなリュックと共にホームにつながるエスカレーターに進んでいく響煌を見ると、心のどこかで嫉妬してしまう。

たまに校門の前にベンツが止まってたりすることはあるけど、響煌の家はきっととても裕福なわけじゃない。

でも、どうしてもたまに、俺の家とは違う、幸せそうな家を見ると、心の底がぎゅっと痛くなって、そんな幸せな家庭なんて壊れてしまえばいいのにって思ってしまう。

『そろそろ行かないとな』

響煌が乗ったであろう電車が出発したのを確認して、今日もまたあいつが通った道を辿って行く。