18 ページ18
玉「平野さんっ、分かりますか…」
突然の出来事で少し焦りながら平野さんの手を握ると軽く握り返して、頷いた。
「ﾊｧｯ…ﾊｱｯ…」
呼吸に合わせるようにして曇る酸素マスクの内側がその生きていることを示す。
「っ…ﾊｧｯ…ﾊｱｯ＿＿＿」
何か話した気な表情で見つめてくる眼差しと、酸素マスクを掴む左手。
ちらっとモニターに目をやるとSPO2は低めの数値を示していて、なんで意識があるんだろってくらい。
酸素マスクを掴む手が唐突にベッド脇へと落ち、どうしたものかと顔を見ると息が上がってかなり辛そうだった。
ぼーっとしていないで、早く敗血症になった原因元を探らないと、、、
採血用の針を持ち直して、腕に当てると、熱を帯びた体温が手袋越しに伝わってきた。
「…先生」
突然、声が聞こえてきて、顔を上げた。
本当は息もまともに出来ないほど辛いはずの平野さんが手を俺の頭の上にそっと置いて、
「髪……短くない…」
一瞬、いや二瞬、何の話をしてるのか、さっぱり。
玉「え…？」
「今朝、明日髪切りに行くって言ってたから…」
もしかして、自分のせいで俺が髪切りに行けなかったって思ってるのでは…？
玉「あぁ…、確かに、そんなことも言ったかもしんないですね」
「ごめんなさい、せっかくの休み」
同じ職を経験してるからこそ言える、簡単に家には帰れない、帰してもらえない辛さを分かってるからこそのこの言葉の重み。
玉「そんなこと気にしないでください。半日でも十分、楽しませてもらいましたから」
そう言うと、“良かった”と平野さんが呟いた。
すかさず腕に刺していた採血の針を抜いて、スピッツを近くにいた看護師に渡した。
急ぎで検査に回してもらっても、検査結果が出るのは早くても半日。
半日のたった数時間でも、容態がどうなるかは分からない。
「俺…どうなっちゃ…ｺﾞﾎｯｺﾞﾎｯ＿＿」
何かを言いかけた途端、咳込んだと同時に口から血が溢れた。
玉「平野さん、少しそのまま口開けててくださいね」
少し強引に開いた口に入れると溢れる血がチューブを赤く染めていく。
突然の吐血…。咳き込んだから気道か肺が傷ついて喀血したんだったらまだいいけど、もしこれが臓器からの出血で吐血を引き起こしたんだったら…。
もし、本当に敗血症ショックを起こしてしまったら、
命の保証はないかもしれない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 101人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：わんちゃん | 作者ホームページ：http://commu.nosv.org/p/ayanes0328
作成日時：2023年12月19日 18時
